💉 30秒でわかる|ノルアドレナリンとアドレナリンの違い
💊 ノルアドレナリン(NAD):α作用中心(血管収縮→血圧UP)、β作用は弱い
💊 アドレナリン(AD):α+β作用両方あり、α作用はNADより強い
🚨 心停止:アドレナリンを使う(ノルアドは使わない)
🩺 敗血症性ショック:ノルアドレナリンを使う(第一選択)
⚠️ 誤投与事故:名前が似てるため注意。実際に事例あり(本記事で解説)
🔄 アドレナリン=ボスミン=エピネフリンは同じ薬
📝 監修・執筆
万波 大悟(まなみ だいご)
診療看護師(NP)/AHA-ACLSファカルティ/元 救急看護認定看護師/日本救急看護学会 評議員/AHA-BLSコースディレクター
所属:急変対応.net(代表)/提携ITC:JSISH-ITC
💊 ノルアドレナリンとアドレナリン|作用と使い分け
ノルアドレナリン(NAD)とアドレナリン(AD)は、名前が似ていて混同されやすい血管作動薬ですが、作用と使用場面が全く異なります。両者の違いを正しく理解することは、急変対応でのミス防止に直結します。
🔴 ノルアドレナリン(NAD)
作用:α作用中心
効果:血管収縮→血圧上昇
β作用:弱い(心臓への作用は少ない)
使う場面:敗血症性ショック(第一選択)
心停止:使わない
🟢 アドレナリン(AD)=ボスミン
作用:α作用+β作用 両方
効果:血管収縮+心臓刺激
α作用:NADより強い
使う場面:心停止、アナフィラキシー、喘息重積
心停止:第一選択薬
💡 覚え方のコツ
「ノルアド=血管だけ、アド=血管+心臓」
心停止では心臓の動きを戻すためにβ作用が必要 → アドレナリン一択です。
アドレナリンとノルアドレナリンの名称や外観の違い
蘇生時に使う薬剤と言えば、皆さんどんなものを思い浮かべますか?
よく使うものとして、アドレナリン(商品名:ボスミン)があります。
「アドレナリン」と言われても「ボスミン」と言われても同じものです。
採用されている薬剤の名称で復唱(確認)してください。
さて、アドレナリンと名前が似ている薬剤としてノルアドレナリンがあります。心停止の患者には使いませんが、投与間違いの事故が報告されてましたので紹介します。製剤の外観については画像をご覧ください。
🚨 実例で学ぶ|アドレナリン→ノルアドレナリン誤投与
医療事故情報収集等事業 第48回報告書(2016年10月〜12月)より、急変時に「ボスミン」の指示に対しノルアドレナリンを投与した事例を紹介します。口頭指示の危険性と薬剤知識の重要性が浮き彫りになった事例です。
🚨 事例:ボスミン指示にノルアドを投与
医療事故情報収集等事業 第48回報告書(2016年)
👥 登場人物
・医師E:指示を出した医師
・看護師A(17年目):モニター異常を発見・薬剤投与
・看護師B(7年目):心マ→薬剤準備・投与
・看護師C(2年目):応援で駆け付け、薬剤準備
・看護師D:心マ交代
⏱️ 事故の経緯(タイムライン)
早朝 看護師AがSpO2低下を発見、訪室・酸素増量するも改善せず医師へ連絡
4:38 医師E到着、心臓マッサージ指示(HR 20-30、血圧測定不可)
1回目の指示 医師E「アトロピン1A、ボスミン1A」
看護師A「ボスミンはないです」・看護師C「ノルアドしかないです」
医師E「ノルアドでもいいから投与して」
看護師Cが準備、看護師Aが復唱せず投与
2回目の指示 医師E「アトロピン1A、ボスミン1A」
看護師B(ボスミン未経験)が空アンプルを見て「ボスミン=ノルアド」と思い込み、復唱して投与
🔍 事故の背景
・救急カートにはアドレナリンシリンジが配置、ボスミン(アンプル)はなし
・病棟では医師が「ボスミン」と呼称することが多かった
・対策としてシールで「アドレナリン=ボスミン」と表示していた
・看護師A(17年目):ボスミンを知っていた
・看護師B(7年目):ボスミンを知らず、ノルアド空アンプルで思い込み
・看護師C(2年目):ボスミンを知らず、どちらも「血圧を上げる薬」と認識
・看護師A〜Cの誰も、救急カートにアドレナリンシリンジがあることを知らなかった
💡 改善策(報告書より)
① 口頭指示を受けたら、準備した薬剤名を読み上げ、お互いに指示内容を確認のうえ実施する
② 救急カート内の薬剤を中心に、急変対応に結びつく病棟研修会を開催し知識を深める
③ ボスミン/アドレナリンの呼称統一の周知活動を徹底する
④ ノルアドレナリンを救急カートから除外することも検討
📣 この事例から学ぶ最重要教訓
🔥 復唱・確認は"基本"だが、急変時こそ徹底が難しい
🔥 「血圧を上げる薬」という漠然とした認識は危険
🔥 空アンプルの見た目だけで薬剤を判断してはいけない
✅ 救急カートの中身を定期的に確認する(自部署で把握)
✅ ボスミン=アドレナリンの別名であることを全員が知っておく
✅ 薬剤の作用機序を理解しておく(昇圧薬の使い分け)
💭 この事例を掘り下げる|私見
ここからは筆者(診療看護師)の視点で、この事例をもう一歩深掘りしていきます。単なる薬剤取り違えにとどまらない、もっと根本的な問題が見えてきます。
🤔 まず考えてみてください
この事例の患者さん、どの心停止の種類だと思いますか?
① 心室細動(VF)
② 無脈性心室頻拍(pVT)
③ 無脈性電気活動(PEA)
④ 心静止(Asystole)
🔍 筆者の考察:おそらく ③ PEA または ④ Asystole
事例の記述から、以下の点が根拠として挙げられます。
☑ 医師到着後にCPRを開始している(除細動の記載なし)
☑ アトロピンを投与している(徐脈性不整脈・PEA想定)
☑ HR 20-30、血圧測定不可の表記(VF/pVTなら波形表現のはず)
つまり、心電図上の判断やショック適応の評価がどこまで行われていたか、状況認識ができていたかも気になるところです。
💥 本質的な問題は"薬剤の取り違え"じゃない
この事例でもっとも重要なのは、3人の看護師全員がボスミン(アドレナリン)を"知識として"知らなかったという点です。
裏を返せば──
急変時に薬剤を使用することを想定した
トレーニングが提供されていない可能性
が浮上してきます。ボスミンの別名、アドレナリンの作用機序、ノルアドレナリンとの違い、救急カートの中身──これらは事前に学んでいなければ、いざという時に絶対に使えない知識です。
💡 この事例から得られる3つの学び
1. 心停止の種類を正しく見極める
VF/pVT(ショック適応) vs PEA/Asystole(ショック非適応)の判断
2. 救急カートの中身を"知識"として把握
アドレナリン=ボスミンなど、呼称の別名も含めて
3. 急変対応は"事前学習"がすべて
現場で初めて出会う状況は、事前に練習していなければ動けない
📚 看護師の急変対応教育を振り返る
みなさんはこれまで、急変対応についてどんな教育を受けてきましたか? 少し振り返ってみてください。
📖 筆者の経験(一例として)
学生時代:BLSを"体験程度"に実施。
入職時:BLSを一度受講。
練習のシナリオは「街中で倒れた人」「院内コンビニで倒れた人」といった設定。心電図モニター、マニュアル式除細動器、救急カート、薬剤は一切登場しませんでした。
💥 ここに根本的な矛盾があります
しかし冷静に考えると、院内で看護師が実際に行うのはBLS(一次救命処置)ではなく、ALS(二次救命処置)です。
🏥 院内の実際
・心電図モニター装着あり
・除細動器あり
・救急カート・薬剤あり
・チーム対応
📚 教育内容(BLS)
・街中を想定
・AED使用まで
・薬剤なし
・単独〜少人数
業務に即していないBLS教育だけを提供していることが、そもそもの問題ではないでしょうか?
💊 薬剤教育も同じ構造的問題が
看護師の業務として、救急カートの点検は定期的にありますよね。多くの方が先輩から「薬、覚えといてね」と言われて自分で調べた経験があるはずです。
しかし実際に使う場面に遭遇しないため、知識が"知っている"で止まり、"使える"にならないのが現実です。
そもそも救急カート内の薬剤を、一人でメモして適応・効果・副作用を覚える方法自体にも疑問があります。実際に調べても──
「ショックの治療」
「急性循環不全治療薬」
「心室細動の予防」
──このように広く抽象的に書かれているだけで、病態や治療の場面と結びつきません。結果として覚えても使えない知識になってしまいます。
🤔 改めて、あなたに問いかけます
Q1. あなたはどんな急変対応教育を受けましたか?
Q2. その教育で、実際の急変現場で動けますか?
Q3. (教育担当者の方へ) 今の教育内容で、
この事故は防げると思いますか?
🏥 こうした誤投与を防ぐには、実践的な訓練が必要です
薬剤の知識を「現場で使える判断力」にするには、シミュレーションの反復が必要です。急変対応.net/CODE BLUEでは、看護師インストラクターと一緒に、ノルアドとアドの使い分け・復唱確認・チーム連携を学べる2つのコースを提供しています。
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🎯 さいごに|この記事で最も伝えたいこと
こうした事例を読むと、臨床では薬剤の知識も急変対応の必須スキルだと改めて感じます。
ただし朗報もあります。心停止という超緊急下でやることは限られているため、対応自体はシンプルです。まずはここから押さえましょう。
💊 心停止で使う薬剤はこの2つ(+α)
① アドレナリン
別名:ボスミン。全心停止で使用する最重要薬剤
② 抗不整脈薬(アミオダロン・リドカイン)
難治性VF/pVTで使用
⚠️ 注意:リドカイン=キシロカインです。別名に注意!
💡 知っていましたか?
「VF(心室細動)に対する早期除細動」が救命率に直結することはよく言われます。
一方で、院内心停止で多いPEA(無脈性電気活動)やAsystole(心静止)に対しては「アドレナリンの迅速投与」が推奨されていることをご存じですか? ショック適応外のリズムでも、"やること"は明確にあります。
→ 詳しくは記事末尾の関連記事をご覧ください。
📚 補足|ノルアドレナリンとアドレナリンの違い
「ボスミン(アドレナリン)」と「ノルアドレナリン」は、どちらも昇圧作用を持ちますが、作用機序がまったく異なります。
🔬 受容体への作用の違い
🩸 アドレナリン(AD)
・α受容体 強く作用
・β受容体 強く作用
→ 心停止の第一選択
💧 ノルアドレナリン(NAD)
・α受容体 強く作用
・β受容体 作用は弱い
→ 主に昇圧(ショック治療)
💡 重要: 心停止ではβ作用による心機能・心拍数への効果が重要。そのためβ作用が弱いノルアドレナリンでは代用できません。
📊 各作用の比較(ノルアドレナリン添付文書より)
| 項目 |
NAD (ノルアド) |
AD (アドレナリン) |
| 💓 心機能 |
| 心拍数 |
減少 |
増加 |
| 1回拍出量 |
増加 |
= 増加 |
| 心拍出量 |
不変〜減 |
増加 |
| 冠血流量 |
増加 |
= 増加 |
| 不整脈 |
増加 |
= 増加 |
| 🩺 血圧 |
| 収縮期 |
増加 |
= 増加 |
| 拡張期 |
増加 |
不定 |
| 平均 |
増加 > |
増加 |
| 肺動脈 |
増加 |
= 増加 |
| 🩹 末梢循環 |
| 末梢抵抗 |
増加 |
不変 |
| 脳循環 |
0〜減 |
- |
| 内臓循環 |
0〜増 |
< 増加 |
| 皮膚・腎血流量 |
減少 |
減少 |
※ NAD:ノルアドレナリン / AD:アドレナリン / ノルアドレナリン添付文書より
💭 筆者からのメッセージ
従来の教育に少しの時間と、臨床に即したシミュレーションを加えるだけで防げる事故だと私は考えます。
当事者になった看護師にも、辛い思いをしてほしくありません。注意喚起としてこの記事をまとめました。
看護師の役割に「患者の命を預かる」ことが含まれると考えるなら、ぜひ自分自身の教育・スタッフ教育について検討してみてください。
アドレナリンとノルアドレナリンのα作用とβ作用の割合
❓ よくある質問|ノルアドレナリンとアドレナリン
Q1. ノルアドレナリンとアドレナリンの違いは?
ノルアドレナリンはα作用中心(血管収縮)、アドレナリンはα+β作用両方(血管収縮+心臓刺激)です。心停止では心臓を動かすβ作用が必要なのでアドレナリンを使います。
Q2. なぜ心停止でノルアドレナリンを使わない?
β作用が弱いためです。心停止では心臓を動かす必要があり、β作用(心筋収縮・心拍数UP)が強いアドレナリンが適しています。
Q3. ノルアドレナリンはどんな時に使う?
敗血症性ショックの第一選択薬です。ICUや救急外来で持続静注します。
Q4. ノルアドレナリンの「ワンショット投与」はOK?
持続投与が基本です。
Q5. 「ノルアド」と「アド」はどうやって見分ける?
アンプル・シリンジのラベルを声に出して確認します。口頭指示は復唱しましょう。
Q6. 誤投与を防ぐには?
①口頭指示の復唱、②ラベル指差し確認、③救急カート定期点検、④シミュレーション訓練。知識不足による事故は研修で予防できます。
Q7. アドレナリン=ボスミン=エピネフリン?
はい、すべて同じ薬です。和名(アドレナリン)、商品名(ボスミン)、英語名(エピネフリン)の違いだけです。
📚 参考文献
1. 医療事故情報収集等事業. 第48回報告書(2016年10月〜12月). 公益財団法人 日本医療機能評価機構.
2. 日本蘇生協議会. JRC蘇生ガイドライン2020. 医学書院, 2021.
3. American Heart Association. 2020 AHA Guidelines for CPR and ECC. Circulation. 2020;142(16_suppl_2).
4. ノルアドレナリン注0.1% (添付文書). 第一三共株式会社.
5. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021. Intensive Care Med. 2021;47(11):1181-1247.
🎯 薬剤知識を「現場で使える判断力」に
本記事の誤投与事例のように、「知らなかった」「似てて混同した」で起こる事故は、シミュレーション訓練で予防できます。看護師インストラクターと少人数制で、薬剤の使い分け・口頭指示の復唱・チーム連携を実践的に学べる2つのコースをご用意しています。
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