急変対応マニュアル

【看護師向け】ショック対応 完全ガイド|血圧正常でもショックはある|症状別 急変対応マニュアル③

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夜勤中、患者さんの様子が「なんか変」。血圧は120/80。「血圧はあるから大丈夫」と安心したくなる――でも本当は、その時すでにショックが始まっているかもしれません。ショックは低血圧ではなく、組織灌流不全。血圧が保たれていてもショックは起こります。
本記事は、ショックを「分類を覚える記事」ではなく「気づいて動く記事」として書きました。看護師が現場で「ショックかも」に気づく手がかり、初動の動き方、診断名ではなく所見で伝える報告のしかたを、症状別 急変対応マニュアル③として整理します。
30秒で結論
ショックは低血圧ではない。組織灌流不全である。
血圧正常でもショックはある。代償機転で血圧は最後まで保たれる。看護師が気づくのは冷汗・頻脈・尿量低下・反応低下「ショックかも」と思った時点で動くのが正解。分類を完璧に当てる必要はない。
気づく手がかり
冷汗
頻脈
尿量低下
反応低下
皮膚冷感
気づいたら動く
応援要請
ABCDE評価
ライン2本確保
採血+乳酸
報告は所見で
診断名で伝えない
血圧の数字より
皮膚と尿で
循環不全を表現
血圧固執の罠
血圧は保たれる
若年者ほど代償
進行期で崩れる
遅すぎる
📖 急変対応の全体像を先に押さえたい方は、急変対応マニュアル|4ステップで読み解く保存版ガイド(察知→情報統合→判断/報告→介入)から読むのがおすすめです。
本記事は症状別 急変対応マニュアル③。①意識障害「静かに死ぬ」、②呼吸困難に続くシリーズ第3回。

1. ショックの本質|低血圧ではなく組織灌流不全

ショックの定義は「組織への酸素供給と需要の不均衡による細胞・組織レベルの障害」(欧州集中治療医学会・SCCM等)。「低血圧」ではありません。細胞が酸素を使えない状態が本質で、血圧は症状の一つに過ぎない。血圧が保たれていてもショックは起きていることがあるのが、看護師に最も伝えたいこと。
💡 本記事の核心メッセージ
1. ショックは低血圧ではない。組織灌流不全である。
細胞・組織への酸素供給が落ちる病態。血圧低下はその結果のひとつであり、本質ではない。

2. 血圧正常でもショックはある(代償性ショック)。
交感神経活性化で末梢血管を絞り、頻脈で心拍出を増やすことで、体は必死に血圧を保つ。血圧が下がる頃には、すでに代償が破綻している

3. 看護師の役目は「ショックかも」に気づくこと。
分類を完璧に当てる必要はない。冷汗・頻脈・尿量低下・反応低下で「ショックかも」と疑った時点で動く。鑑別は医師が会話と診察で進めます。

1-1. 代償性ショックとは何か|血圧が保たれているのにショック

ショックの初期段階が代償性ショック。組織灌流は落ちはじめているが、体の代償機転で血圧は維持されている状態。最も気づきにくく、最も気づくべき段階です。
代償機転の3本柱|なぜ血圧は保たれるのか
① 交感神経活性化(秒〜分単位)
圧受容器(頸動脈洞・大動脈弓)が灌流低下を感知 → 交感神経が活性化 → 頻脈・末梢血管収縮・心収縮力増強で血圧を保つ。同時に汗腺刺激で冷汗
→ 看護師の手がかり:頻脈・冷汗・手足が冷たい・CRT延長

② RAA系活性化(分〜時間単位)
腎灌流低下 → レニン分泌 → アンジオテンシンII産生 → 血管収縮+アルドステロン分泌でNa・水の再吸収。同時にADH分泌で尿量が著明低下
→ 看護師の手がかり:尿量低下(0.5mL/kg/h未満)

③ 嫌気性代謝へのシフト(時間単位)
組織灌流不足が続くと細胞は嫌気性代謝に切り替わり、乳酸産生が増加。アシドーシスから代償性過換気(呼吸促迫)意識変容
→ 看護師の手がかり:呼吸促迫・反応低下・乳酸値上昇
なぜ「血圧固執」が危険か
代償機転は強力で巧妙。健康な若年者では循環血液量の30%程度を失っても血圧が保たれることがある。血圧低下が出た時点で、すでに代償破綻=進行期に入っている。そこから心停止までの時間は短い。

「血圧130/80だから大丈夫」と書類上で安心するのが最大のピットフォール。書類のバイタル数値だけで安心しないでください。

1-2. ショックの3段階|代償期で気づくのが看護師の役目

ショックは時間軸で3段階に進行します。気づくべきは①代償期。②進行期で気づくのは「遅れて気づいた」状態、③不可逆期は救命困難に近い。
① 代償期(初期)
血圧は保たれる
所見:頻脈・皮膚冷感・冷汗・CRT延長・軽度頻呼吸・尿量低下・落ち着きなさ・反応の鈍さ
血圧:正常〜やや高め
意識:清明〜やや変容
🎯 ここで気づくのが看護師の役目
② 進行期(中期)
血圧低下出現
所見:収縮期90未満・冷汗・チアノーゼ・著明な頻脈or徐脈・乏尿/無尿・意識障害
血圧:収縮期90未満
意識:JCS低下
⚠️ 分単位で介入要・即コール
③ 不可逆期(末期)
臓器障害不可逆
所見:重篤な低血圧・徐脈・無尿・昏睡・多臓器不全・DIC
血圧:測定困難
意識:昏睡
💔 救命困難・心停止に進展
SECTION 1 まとめ
ショックは低血圧ではなく組織灌流不全血圧正常でもショックはある(代償性ショック)。代償機転は強力で、血圧が崩れた時点ですでに進行期。看護師の役目は代償期で気づくこと。次のセクション2では、代償期で気づくための7つの手がかりを整理します。

2. 看護師が気づく7つの手がかり

代償期で「ショックかも」に気づくための具体的な手がかりは7つ。これらは看護師が触れる・観察する・聞くことで気づける所見ばかり。書類上のバイタル数値だけで判断せず、患者さんに触れて、観察して、経時で見ることが鍵です。
代償期に気づける手がかり 7つ
1. 冷汗
交感神経活性化のサイン。額・首・手のひらが湿っている。「なんで汗かいてるんだろう」が違和感の入口。
2. 頻脈
HR 100超(運動・発熱・痛み等の説明がつかない)。経時で上がってきている=要注意。
3. 尿量低下
0.5mL/kg/h未満(60kgなら30mL/h未満)。RAA系活性のサイン。時間ごとの記録が鍵。
4. 反応低下
「いつもと話し方が違う」「ぼーっとしている」「返事が遅い」。脳灌流低下の初期サイン。GCS変化前に気づける。
5. 皮膚冷感
末梢血管収縮のサイン。手足が冷たいを必ず触れて確認。室温が暖かいのに冷たいなら強い手がかり。
6. CRT延長
毛細血管再充満時間。2秒以上で延長。爪を圧迫して色が戻る時間。補助所見として他と組み合わせる。
7. 呼吸促迫
呼吸数22以上(NEWS2基準)。代償性過換気・アシドーシス代償。SpO2低下より先に出ることも多い。
💡 気づくための3つの行動
1. 触れる
手足の冷感・冷汗を毎回触れて確認。書類のバイタル数値だけでは気づけない。患者さんに触れて初めて見える所見がある。

2. 観察する
話し方・表情・反応の鈍さ・落ち着きなさ。「いつもと違う」を言葉にできるか。家族が気づくことも多い。

3. 経時で見る
バイタル単発ではなく推移。HR が80→90→105と上がってきている、尿量が50mL→30mL→20mLと減っている。グラフ的に見ると代償期サインが浮かび上がる。

2-1. 「ショックかも」と疑う典型パターン

7つの手がかりのうち2〜3つが揃ったら「ショックかも」と疑う。1つだけなら様子見でも、複数が同時に揃うのは異常。経時悪化があればさらに強い疑い。
気づきのパターン例
パターンA:頻脈+冷汗+落ち着きなさ(血圧は保たれている)
→ 出血・敗血症・アナフィラキシーいずれも要疑。代償期が始まっている。

パターンB:尿量低下+反応低下+呼吸促迫
→ 組織灌流不全のサイン。経時で1時間内のバイタル推移を確認。

パターンC:「なんか変」+いつもと違う反応
→ 看護師の直感は研究上も意味あり。所見の言語化を試みつつ、まず先輩相談。

パターンD:明らかな出血源+頻脈(術後ドレーン排液急増・吐下血など)
→ 出血性ショック疑い。血圧低下を待たず動く。

パターンE:薬剤・造影剤投与開始直後の変化(蕁麻疹・嗄声・血圧低下のいずれか)
→ アナフィラキシー疑い。施設の包括指示プロトコルを確認。
補足|看護師の「なんか変」は研究上も意味がある
Cioffi(2000)・Odell ら(2009)など、看護師の「直感的な気づき」が急変前兆として有意であることを示す研究があります。「なぜか分からないけど気になる」を言語化して先輩相談する習慣が大事。NCLS-EPでは、この直感を所見の言語化に変えるトレーニングを重視します。
SECTION 2 まとめ
代償期に気づける手がかりは冷汗・頻脈・尿量低下・反応低下・皮膚冷感・CRT延長・呼吸促迫の7つ。2〜3つ揃ったら「ショックかも」と疑う触れる・観察する・経時で見るの3つの行動が鍵。次のセクション3では、「ショックかも」と思った時点での初動(ABCDE+応援+ライン)を整理します。

3. 「ショックかも」と思ったら|ABCDE+応援+ライン

「ショックかも」と疑った時点で看護師が動くべきは「原因を絞ること」ではなく「治せる異常を先に潰すこと」。原因鑑別は医師の到着後でよい。応援要請+ABCDE評価+ライン2本確保を3ステップ同時並行で進めます。
💡 「ショックかも」段階で動く3原則
1. 鑑別を絞る前にコール+ABCDE。「出血?敗血症?」を考える前に、まず応援要請とABCDE評価。
2. ライン確保は2本以上(できれば18G以上の太いもの)。輸液・採血・薬剤投与が並行で必要になる。
3. 1人で完璧にやろうとしない。応援を呼び、役割分担。バイタル測定・ライン確保・記録・物品準備・医師コール。

3-1. 「ショックかも」の3ステップ同時並行

「ショックかも」段階の動き
STEP 1
応援要請
1人で抱え込まない。先輩・リーダーをすぐ呼ぶ。「ショックかもしれません、来てください」と一言。原因が絞れていなくてもよい。RRT基準を満たすならRRS起動も視野に。
↓ 並行
STEP 2
ABCDE評価
A気道→B呼吸→C循環→D意識→E体位/全身観察。順番に見るが、明らかな異常があれば手を止めて介入(酸素・気道確保・体位など)。詳細は3-2で。
↓ 並行
STEP 3
ライン確保+採血
末梢ライン2本以上(18G以上が理想)。同時に採血(血算・凝固・生化・乳酸・血液ガス・敗血症疑いなら血液培養2セット)。輸液は施設手順に従って細胞外液で開始。

3-2. ABCDE各論|ショックかも、と思った時に何を見て何をするか

A
気道|発声できるか・気道閉塞のサインは
見る:発声(呼びかけて返答)、気道音(stridor・wheeze)、口腔内(嘔吐物・出血・舌根沈下)
動く:発声不能・気道閉塞所見あれば頭部後屈あご先挙上、必要時下顎挙上+エアウェイ、応援要請。アナフィラキシー疑いなら喉頭浮腫リスクあり、即報告。
B
呼吸|呼吸数・SpO2・努力呼吸・左右差
見る:呼吸数(22以上で要注意・25以上で異常)、SpO2、努力呼吸、胸郭の動き左右差(緊張性気胸を疑う重要所見)、聴診(wheeze・crackle・呼吸音減弱)
動く:酸素投与(目標SpO2 94-98%。高CO2血症リスク群はSpO2 88-92%)、ベッド上の体位調整
⚠️ 胸郭の左右差+ショック疑い+頸静脈怒張は緊張性気胸を強く疑う。即コール+穿刺準備。
C
循環|脈・血圧・皮膚・尿量(ショックの中核)
見る・触れる:脈拍(回数・性状・末梢動脈の触知)、血圧、皮膚冷感・湿潤・色調CRT尿量、頸静脈の怒張・虚脱、出血源(ドレーン・創部・吐下血)、心音
動く:ライン2本確保(18G以上)、輸液開始(細胞外液・心原性疑いは控えめに医師指示まで)、採血+乳酸+血液培養、モニター装着
💡 ショックを疑ったらCで止まって"助けを呼ぶ"(原因鑑別は後でよい)。これはABCDEガイダンスの中核です。
D
意識|GCS/JCS・血糖・瞳孔
見る:意識レベル、瞳孔、血糖測定、麻痺・しびれ、痙攣
動く:意識低下あれば気道確保(誤嚥防止体位)・血糖補正(包括指示)、瞳孔不同・麻痺は脳卒中疑いで即コール
ショック患者の意識変容は「脳灌流低下のサイン」。代償期でも落ち着きなさ・不安感・軽度錯乱として現れる。「いつもと話し方が違う」が初期サインのことも。
E
体位・全身観察|出血源・皮疹・腹部・体温
見る:体位、皮疹・蕁麻疹(アナフィラキシー疑い)、腹部所見、創部・ドレーン排液、体温(発熱・低体温いずれも敗血症の可能性)、四肢の浮腫・冷感
動く:体位調整(下肢挙上15-30度で一時的循環支援)、保温(低体温は予後悪化)、出血部位の圧迫止血、皮疹確認なら被服を緩めて全身観察
💡 ABCDE評価の詳細はABCDEアプローチ完全ガイドを参照。
SECTION 3 まとめ
「ショックかも」と疑ったら応援要請+ABCDE+ライン2本を3ステップ同時並行。原因鑑別は後回しでよい。Cでは皮膚冷感・CRT・尿量を必ず触れて観察するのが看護師の強み。1人で抱え込まず、人を呼んで分担。次のセクション4では、医師に「ショックかも」を伝える会話型の報告(診断名ではなく所見で伝える)を整理します。

4. 報告は診断名ではなく所見で伝える

ショックを疑った看護師の次のミッションは、医師に「ショックかも」を伝えること。「敗血症性ショックです」「出血性ショックです」と診断名で報告しない。看護師が伝えるのは循環不全の所見。冷汗・頻脈・尿量低下・反応低下・皮膚冷感――これらの所見が3つ揃えば、医師は「ショックだな」と動けます。
💡 ショック報告の核心
1. 報告は文章ではなく会話である。医師の質問に答えながら情報を出す。最初の一言で温度感を伝えるだけでよい。

2. 診断名ではなく所見で伝える。「敗血症性ショックです」ではなく「血圧はあるんですが反応悪くて冷汗強いです」。看護師の見たもの・触れたものをそのまま言葉に。

3. 血圧の数字に固執しない。代償期では血圧は保たれる。皮膚と尿で組織灌流不全を伝えるのがショック報告のコツ。

4-1. 入口フレーズ|「先生、血圧はあるんですが…」型

ショックの代償期で気づいた時、最も自然で、医師にも温度感が伝わる入口の一文がこれです。血圧の数字を冒頭に言わず、所見3つで循環不全を伝える
ショック代償期の中核入口フレーズ
「先生、血圧はあるんですが反応悪くて冷汗強いです」
血圧の数字より所見3つ(血圧維持・反応低下・冷汗)で循環不全を伝える。
医師は「ショックの代償期だな」と一発で理解できる。
場面別の入口フレーズ(全て所見ベース)
代償期(血圧は保たれている)
「先生、血圧はあるんですが反応悪くて冷汗強いです」 「先生、頻脈と冷汗が出てきていて尿量も落ちてて、相談してもいいですか? 「先生、術後の方の頻脈と冷汗が気になっていて、診ていただきたいです」 進行期(血圧低下出現)
「先生、血圧下がってきて反応も悪くなってます、すぐ来てほしいです」 「先生、抗菌薬3日目の方が反応悪くなってきて冷汗強くて、すぐ来てほしいです」 明らかな出血源あり
「先生、術後2日目の方でドレーン排液が急増してバイタル崩れてて、すぐ来てほしいです」 薬剤・造影剤投与開始直後
「先生、○○投与開始直後にアレルギー反応と血圧低下があって、すぐ来てほしいです」
使わない|看護師がやりがちなNG入口
❌「敗血症性ショックです」
→ 診断名で報告しない。看護師は所見を伝える役割。鑑別は医師が会話と診察で進める。

❌「血圧100/60です」(数字単独)
→ 代償期では血圧は保たれている。数字だけ伝えると医師は緊急性を捉えにくい。

❌「ちょっといつもと違う気がします…」(所見ゼロ)
→ 「いつもと違う」を所見の言葉に変える(冷汗・頻脈・尿量低下・反応低下)。直感を所見で言語化するのが看護師のスキル。

❌「○号室の○○さんが…」(部屋番号で患者特定)
→ 当直医・コンサル先は部屋番号や名前を聞いても誰のことか分からない。「術後2日目の方」「肺炎で抗菌薬3日目の方」と疾患・治療段階で特定する。

4-2. 会話シーン3例|医師の質問に答えながら情報を出す

1人で全部話そうとせず、医師の質問に答えながら情報を出していくのが現場のリアル。冒頭の一文で温度感が伝わると、医師は的確に質問を返してくれます。

🎭 シーン1|代償期で気づいた第一報(血圧は保たれている)

📞 場面|肺炎で抗菌薬3日目の70歳女性、なんとなく反応が悪くなっている。血圧は118/72で保たれている。
看護師:「先生、血圧はあるんですが反応悪くて冷汗強いです。診ていただけますか?
— 血圧の数字を冒頭に言わず、所見3つで循環不全を伝える。代償期の典型表現。

医師:「血圧と脈、呼吸数は?」
看護師:「血圧118/72、HR 110、呼吸数26、SpO2 95です。抗菌薬3日目の70歳女性で、朝の検温時はHR 80台でした
— 聞かれた順に。血圧は数字で答え、経時変化(HR上昇)を添える。2つ目で年齢・性別+患者特定。

医師:「尿量は?」
看護師:「直近1時間20mLでした。手足も冷たくて、なんか様子が違うんです」
— 看護師の「なんか違う」を所見で補強。

医師:「乳酸測ってる?ライン何本ある?」
看護師:「末梢1本入っています、もう1本確保して採血追加します。乳酸と血液培養もいいですか?
— こちらから次の動きを提案できると、医師の到着前に準備が進む。

医師:「お願い、すぐ行きます」
看護師:「お待ちしています
「敗血症性ショックです」と診断名で言わない。所見で伝える。医師は「血圧維持+反応低下+冷汗+頻脈+尿量低下+抗菌薬使用中」の組み合わせから、敗血症性ショックの代償期を即座に想起できる。

🎭 シーン2|術後の代償期で気づいた相談(血圧は正常範囲)

📞 場面|術後2日目の65歳男性、HR 105+冷汗+ドレーン排液増加。血圧115/70で正常範囲。
看護師:「先生、術後2日目の方の頻脈と冷汗、ドレーン排液増加が気になっていて、相談してもいいですか?
— 「相談してもいいですか」の疑問形。血圧は保たれているけど代償期サインを3つ揃えて伝える。

医師:「具体的にどれくらい?」
看護師:「65歳男性で、HR 105、血圧115/70なんですが30分前は130/80でした。ドレーン排液は前のラウンドから150mL増えています、冷汗もあって手足冷たいです
— 2つ目で年齢・性別+経時変化(血圧低下傾向)+他の所見をセットで。

医師:「Hb直近は?」
看護師:「術後翌日の検査で10.5でした。出血が進んでいるか気になっています
— ソフト懸念をA(評価)として添える。「出血性ショック疑い」と診断名で言わない。

医師:「採血してくれる?クロスマッチも追加で。それまでに見に行く」
看護師:「分かりました。ライン1本追加で確保しておきます
医師:「お願い」
血圧115/70(正常範囲)でもショック代償期。経時変化で「30分前は130/80」と伝えると、医師は血圧低下傾向に気づける。頻脈・冷汗・ドレーン排液増加を主訴として伝えるのが「血圧で気づくな、皮膚と尿で気づける」の実装。

🎭 シーン3|アナフィラキシー(投与開始直後・包括指示先行)

📞 場面|造影剤投与開始直後の55歳女性、蕁麻疹+嗄声+血圧低下
看護師:「先生、造影剤投与開始直後にアレルギー反応と血圧低下があって、すぐ来てほしいです。包括指示でアドレナリン筋注いきます
— 第一報は患者特定+主訴+依頼+対応を一息で。アドレナリン筋注は遅らせない。

医師:「症状は?」
看護師:「55歳女性で、全身に蕁麻疹、声がかすれてきていて、血圧80/50に下がっています

医師:「アドレナリン何mg、どこ?」
看護師:「0.3mg大腿外側に筋注しました。輸液急速負荷+酸素10L開始しています
医師:「OK、向かっています。気道閉塞リスクあるから挿管セットも」
看護師:「挿管セットと気管切開セット準備します。経過また連絡します
※ アナフィラキシーは「相談」型ではなく「対応開始+通告」型。アドレナリン筋注は分単位で予後に直結するため、医師の到着を待たない。施設の包括指示プロトコルを事前確認しておく。

4-3. 報告3段階|温度感の使い分け

ショックの段階や状況に応じて報告の温度感を使い分けます。緊急コール / 早期報告 / 相談・経過報告の3段階。
🚨 緊急コール
分単位で介入要
・血圧低下顕在期
・アナフィラキシー
・閉塞性疑い
・心停止前兆

入口:「すぐ来てほしいです
⚡ 早期報告
15-30分以内に介入要
・代償期サイン揃いはじめ
・敗血症 NEWS2上昇
・術後の経時悪化
・「血圧はあるんですが…」

入口:「診ていただきたいです
📋 相談・経過報告
緊急ではないが気になる
・「なんか変」
・所見の変化
・対応後の経過

入口:「相談してもいいですか?
💡 「○○先輩と相談した結果」を冒頭に添える
新人ひとりの判断ではなく、先輩・リーダー判断を経由したコールは過剰報告にならない。「○○先輩と相談した結果、医師に連絡しています」と一言添えると、医師の警戒も和らぎ、判断もしやすくなる。
SECTION 4 まとめ
ショック報告の核心は「診断名ではなく所見で伝える」。代償期の中核入口は「先生、血圧はあるんですが反応悪くて冷汗強いです」。血圧の数字に固執せず、皮膚・尿・反応で循環不全を表現する。報告フレームの詳細はドクターコール完全ガイドを参照。次のセクション5では、ショックの5分類を頭の引き出しとして簡潔に整理します。

5. 5分類は頭の引き出し|参考程度に

ショックは病態(なぜ組織灌流が落ちるのか)で5分類されます。看護師が現場で分類を完璧に当てる必要はありません。「ショックかも」と疑った時点でABCDE+応援+ライン2本が共通対応。分類は医師との会話で整理されるもの。とはいえ、頭の引き出しとして5パターンを知っておくと、想起される疾患・場面が広がります。
💡 分類より気づきが先
本記事の核心メッセージは「分類を覚える記事ではなく気づいて動く記事」。5分類は「医師がどう動くかを理解する」ためのフレームであり、看護師が現場で5分類を当てに行く必要はありません。気づき(冷汗・頻脈・尿量低下・反応低下)→動く(ABCDE+応援)→所見で報告が看護師の役割です。

5-1. ショック5分類|病態と典型場面の早見

① 循環血液量減少性
原因:出血・脱水・体液喪失
場面:術後・消化管出血・抗凝固薬使用・嘔吐下痢・熱傷・腸閉塞
所見:頻脈・冷汗・蒼白・末梢冷感
初期対応:輸液+止血+輸血(出血)/輸液+電解質補正(脱水)
② 心原性
原因:心ポンプ機能障害
場面:急性心筋梗塞・致死性不整脈・心不全急性増悪・重症弁膜症
所見:胸痛・起座呼吸・泡沫様喀痰・冷たく湿った皮膚
初期対応:輸液控えめ・原因治療(再灌流・抗不整脈薬)・昇圧
③ 閉塞性
原因:心臓・大血管の機械的閉塞
場面:肺塞栓・緊張性気胸・心タンポナーデ
所見:頸静脈怒張・胸郭左右差・奇脈・突然のSpO2低下
初期対応:原因解除が最優先(穿刺・血栓溶解)・輸液で右心系を支える
④ 血液分布異常性
原因:血管拡張・透過性亢進
場面:敗血症性(感染)・神経原性(脊髄損傷)・副腎不全
所見:発熱or低体温・呼吸促迫・尿量低下・初期は末梢温(warm shock)
初期対応:輸液+原因治療(抗菌薬1時間以内・敗血症)+昇圧(ノルアドレナリン)
⑤ アナフィラキシー
原因:IgE介在性肥満細胞脱顆粒
場面:薬剤・造影剤投与開始直後・食物・蜂毒
所見:蕁麻疹・嗄声・血圧低下(2系統以上)
初期対応:アドレナリン筋注が最優先(大腿外側広筋)・輸液+酸素
アナフィラキシーは血液分布異常性の一種ですが、治療(アドレナリン筋注最優先)が他と全く違うため独立で扱います。輸液は出血性・敗血症性・アナフィラキシーで積極的、心原性では控えめ(肺水腫リスク)。原因解除が必要なのは閉塞性。

5-2. 5分類で看護師の動きはどう変わるか

分類が決まると初期対応の方向性が変わります。看護師が分類を当てる必要はないものの、医師の指示が出たときに「なぜそうするのか」を理解しておくと現場で迷いません。
分類別の動き方の方向性
輸液を積極的に:循環血液量減少性(出血・脱水)・血液分布異常性(敗血症)・アナフィラキシー
輸液を控えめに:心原性(肺水腫リスクで医師指示まで控えめ)
原因解除が最優先:閉塞性(穿刺・血栓溶解)
専用薬剤の優先順位:アナフィラキシー=アドレナリン筋注、敗血症性=抗菌薬1時間以内+ノルアドレナリン、心原性=再灌流・抗不整脈・強心薬
共通対応:応援要請+ABCDE+ライン2本(全分類で同じ)
SECTION 5 まとめ
ショックの5分類:循環血液量減少性・心原性・閉塞性・血液分布異常性・アナフィラキシー。看護師が現場で当てる必要はないが、医師の動きを理解する引き出しとして知っておくと役立つ。共通対応は全分類で同じ(ABCDE+応援+ライン2本)。看護師の核心は気づき・動く・所見で報告

6. ピットフォール|代償期の見逃し

ショック対応で看護師が陥りやすい5つの罠を整理します。知識として知っているだけでは現場で気づけません。「ハマりそうな罠」を予め言語化しておくことで、現場で踏みとどまれます。
ピットフォール 1
血圧固執|「血圧130/80だから大丈夫」
最大の罠。代償期では血圧は保たれる。「血圧130/80だから大丈夫」と書類上で安心していると、30分後に進行期に入って血圧が崩れる。頻脈・冷汗・尿量低下・反応低下が揃えば、血圧が正常でもショックを疑う。NEWS2やqSOFAなど客観スコアを併用すると、感覚に頼らずに判断できる。
ピットフォール 2
若年者の急変|「若いから大丈夫」
若年者は代償能が高く、血圧低下が遅れて出ます。「若いから血圧が保たれているのは当然」と思って様子見にすると、急に進行期へ落ち込むのが若年者の怖さ。若年者ほど頻脈・冷汗・落ち着きなさに注目する。「いきなり血圧が崩れた」と感じるのは、代償期サインを見逃していたから。
ピットフォール 3
高齢者の徐脈・低体温|敗血症性ショックの非典型
敗血症性ショックは「発熱+頻脈」が典型ですが、高齢者・糖尿病・免疫抑制者では低体温(36℃未満)・正常体温・徐脈を呈することがある(SSCG 2021でも警告)。「熱がないから感染ではない」と判断しない。意識変容・尿量低下・呼吸促迫があれば敗血症を疑う。
ピットフォール 4
輸液一辺倒|心原性・閉塞性で輸液増やす
出血性・敗血症性では輸液が中心ですが、心原性では輸液で肺水腫が悪化します。閉塞性は輸液で右心系を支えるが根本治療は原因解除。「ショック=輸液」と一律にせず、呼吸状態・頸静脈怒張・心音で病態を評価する。心原性疑いなら輸液は医師指示まで控えめに、半坐位・酸素・モニター連続が看護師の動き。
ピットフォール 5
アドレナリン遅延|アナフィラキシーで「血圧下がってからアドレナリン」
アナフィラキシーは2系統以上の症状(皮膚・気道・循環・消化器)が出た時点で即アドレナリン筋注がガイドライン推奨(WAO 2020、JSA)。「血圧下がってから」では遅い。蕁麻疹+嗄声が出ていれば気道閉塞リスクで筋注対象。静注ではなく筋注(大腿外側広筋)、皮下注は推奨されない。施設の包括指示プロトコルを事前確認。

7. よくある質問(FAQ)

Q1. 血圧が正常でもショックはあり得ますか?
あり得ます。これが代償性ショックです。交感神経活性化とRAA系の代償機転で血圧は最後まで保たれます。血圧が低下した時点ですでに代償破綻=進行期に入っています。看護師は冷汗・頻脈・尿量低下・反応低下・皮膚冷感など組織灌流不全の所見で代償期に気づくのが役目です。「血圧130/80だから大丈夫」と書類上で安心しないでください。
Q2. ショックを疑うバイタルの基準は?
単一の数値で決まるものではありません。代償期では血圧は保たれます。頻脈(HR 100超)・呼吸促迫(22以上)・収縮期100未満(qSOFA陽性)・尿量0.5mL/kg/h未満・皮膚冷感・CRT延長・意識変容・乳酸2 mmol/L超のうち複数が揃えばショックを強く疑います。NEWS2スコアの上昇も判断材料。「血圧で気づくな、皮膚と尿で気づける」が核心です。
Q3. 「血圧はあるんですが反応悪くて冷汗強い」と報告して大丈夫?
むしろ理想的な報告です。診断名ではなく所見3つ(血圧維持・反応低下・冷汗)で循環不全を伝えるのがショック報告のコツ。医師は「ショックの代償期だな」と一発で理解できます。先輩相談を経由した上で医師コールしてください。「敗血症性ショックです」など診断名で言わなくて大丈夫。看護師は所見を伝える役割です。
Q4. ショックの分類を医師に伝える必要はある?
看護師が分類を完璧に当てる必要はありません。「ショックを疑っています」と所見を伝えれば十分。鑑別は医師が会話と診察で進めます。出血源の有無・感染治療中か・薬剤投与直後か・術後何日目かなど、場面の情報を伝えれば医師が分類を絞れます。看護師は気づき・速度・物品・場づくりが役割です。
Q5. 代償期で気づくのは難しい気がします。コツは?
「触れる・観察する・経時で見る」の3つです。手足の冷感を毎回触れて確認、尿量を時間ごとに記録、HR・SpO2・呼吸数の推移をグラフ的に見る。バイタル単発ではなく経時変化に注目すると代償期サインが見えやすくなります。看護師の「なんか変」も研究上意味があるので、所見の言葉に変えて先輩相談する習慣を。NCLS-EPでは「臨床推論」としてこの視点を体系的に訓練します。
Q6. アナフィラキシーで看護師がアドレナリンを準備していい範囲は?
施設の包括指示プロトコル次第です。多くの病院では「2系統以上のアナフィラキシー症状」「気道閉塞or血圧低下」を満たせば看護師判断でアドレナリン筋注を実施できる包括指示が整備されています。事前に自施設のプロトコルを確認しておくこと。プロトコルがない場合も、即医師コール+物品準備+モニター連続+体位+酸素は看護師判断で動けます。
Q7. ショック疑いで医師到着までに看護師がやることは?
応援要請+ABCDE評価+ライン2本確保(18G以上)+輸液開始+採血(乳酸・血液培養含む)+モニター装着+体位調整+酸素投与+物品準備(救急カート・除細動器・必要時穿刺セットなど)。1人でやろうとせず、人を呼んで分担。記録係も確保。医師到着で即動ける場を作るのが看護師の役割です。

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9. ショックを「動ける」にする|学習オプション

ショック対応はシミュレーションで繰り返し使うことでしか本当には身につきません。除細動器・薬剤・チームダイナミクスの集中訓練ができるACLSがショック対応の中核学習。急変対応.netでは、目的別に選べる4つの学習オプションを提供しています。
ACLS 1日コース
ショック対応・薬剤・除細動の集中訓練
AHA公式 / BLS資格不要
除細動・薬剤・気管挿管介助
全国8地域 / 1日完結
NCLSコース
看護師特化シミュレーション
RSBARをシミュレーション
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1,041人以上が受講
NCLS-EP
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もっと急変対応を学びたい方へ
急変対応.netでは、新人看護師〜指導者まで目的別に厳選した43記事以上を「急変対応マニュアル」として整理しています。

10. 著者紹介

万波 大悟(MANAMI DAIGO)
急変対応.net 監修者
資格 1
診療看護師(NP)
資格 2
元 救急看護認定看護師
活動 1
AHA-ACLSファカルティ
(提携ITC: JSISH-ITC)
活動 2
日本救急看護学会 評議員
救急・急性期看護の現場経験を踏まえ、看護師の急変対応教育に従事。NCLSコースは累計1,041人以上が受講。AHA-ACLSプロバイダーコースのファカルティとして、医師・看護師・救急救命士向けに教育を継続。臨床と教育の両軸から、新人看護師が「現場で使える判断力」を身につけるためのコンテンツを発信しています。

11. 参考文献

1. Del Rios M, Bartos JA, Panchal AR, et al. Part 1: Executive Summary: 2025 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation. 2025;152(16_suppl_2):S284-S312.
2. Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315(8):801-810.
3. Evans L, Rhodes A, Alhazzani W, et al. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021. Crit Care Med. 2021;49(11):e1063-e1143.
4. 日本救急医学会・日本集中治療医学会・日本感染症学会. 日本版敗血症診療ガイドライン2024 (J-SSCG2024).
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8. Devita MA, Bellomo R, Hillman K, et al. Findings of the First Consensus Conference on Medical Emergency Teams. Crit Care Med. 2006;34(9):2463-2478.
9. Schein RM, Hazday N, Pena M, et al. Clinical antecedents to in-hospital cardiopulmonary arrest. Chest. 1990;98(6):1388-1392.
10. Cioffi J. Nurses' experiences of making decisions to call emergency assistance to their patients. J Adv Nurs. 2000;32(1):108-114.
11. Odell M, Victor C, Oliver D. Nurses' role in detecting deterioration in ward patients: systematic literature review. J Adv Nurs. 2009;65(10):1992-2006.
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14. Simons FE, Ardusso LR, Bilò MB, et al. World Allergy Organization anaphylaxis guidelines: 2020 update. World Allergy Organ J. 2020;13(10):100472.
15. 日本アレルギー学会. アナフィラキシーガイドライン2022.
16. 日本医療機能評価機構. 医療安全情報.
17. 日本救急看護学会. 救急看護ガイドブック.
18. NCLS公式テキスト(コードブルー刊).
総まとめ
ショックは低血圧ではない。組織灌流不全である。
血圧正常でもショックはある(代償性ショック)。代償機転で血圧は最後まで保たれる。看護師の役目は代償期で気づくこと

気づきの手がかり7つ:冷汗・頻脈・尿量低下・反応低下・皮膚冷感・CRT延長・呼吸促迫。2〜3つ揃ったら「ショックかも」と疑う

動き方:応援要請+ABCDE+ライン2本確保(18G以上)を3ステップ同時並行。原因鑑別は医師到着後でよい。

報告は診断名ではなく所見で。代償期の中核入口は「先生、血圧はあるんですが反応悪くて冷汗強いです」。

5分類(循環血液量減少性・心原性・閉塞性・血液分布異常性・アナフィラキシー)は頭の引き出し。看護師が当てる必要はない。
本記事は症状別 急変対応マニュアル③。①意識障害「静かに死ぬ」、②呼吸困難、④胸痛「5 killer chest pain」、⑤心電図モニター・不整脈とともにシリーズ進行中。次回⑥発熱・敗血症・⑦痙攣・⑧腹痛と続きます。

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