臨床で働いていると患者の緊急事態に対応しなければならない場面が必ずあります。
今回は、緊急事態の中でも院内心停止(in-hos- pital cardiac arrest: IHCA)に焦点をあて、対応するにあたって必要なスキルのトレーニングができているのか?という話です。
皆さんは
どんなBLS研修を受けていますか?
もしくは指導していますか?
そして、そのBLSのトレーニングは臨床で役立っていますか?
院内心停止の状況を整理
まず、院内心停止の対応で必要になるものって
①医師、看護師などのマンパワー
②救急カート(薬剤、BVM:バッグバルブマスク、気管挿管の物品)
③心電図モニター
④マニュアル式除細動器(もしくはAED)
⑤病院としての規定、家族への連絡や対応など
こんなものでしょうか?
この中で、BLS研修で学べるものを整理してみます。
よくある状況設定だと、こんな感じでしょうか。
応援要請や救急カートを依頼
↓
一人がCPRを開始
↓
BVMとAEDが到着して使って終わり
正直、これだと全然足りないんですよね。
院内の場合は複数人で対応することも必須です。でも、チームで対応するための効果的なコミュニケーションや連携という概念すら含まれていないケースも多いんじゃないでしょうか?
さらには
依頼された救急カートから使うもの
心電図モニターを装着したらどうなるか
除細動器がある場合はどうするか?
などなど、この辺まで学習出来るような構成になってますか?
いやいや、待ってよ。
それってACLSやICLSでやる内容だから、BLSじゃないでしょ?
それに新人さんが一人でBLS以上のことをやる場面ないよね?
という意見もあるかと思いますが、どこの部署であっても心停止という急変時にCPRとAEDだけのBLS部分で終わる事はないと思うのです。
更に、興味深いデータがあるので紹介します。
国立循環器病研究センターのIHCAの現状や特徴を調査した研究があります。
その中に心停止時の初期調律が記載されています。
457例のうち(2006年12月から2015年3月)
□PEAが最多(203例:44%)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcsc/25/1/25_27/_pdf/-char/ja
□心室細動:VF 91例(20%)、心室頻拍(pVT)77例(16%)
□VF/pVT合わせて除細動"適応"調律は36%
循環器疾患の多い病院であってもショック"不適応"のケースに遭遇する頻度が高いことを示しています。
さらに興味深いポイントとして
なんと89%の症例が心電図モニターを装着しているんだ
□心電図モニターの装着例:399例(89%)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcsc/25/1/25_27/_pdf/-char/ja
□第一発見者がBLS/ACLSの資格保有者だった症例が353例(76%)
いや、病院なら当たり前でしょ
その通り!
つまりIHCAでは除細動が適応とならないケースが多くて、心電図のモニタリングをしているなら、「AEDで解析する必要ないよね?」ということ
あーなるほど
BLS研修でやった
「AED持ってきてください」
「AEDつけてください」
こういう場面は限定的だよね?ってことですね。
AEDを使うとしても、心電図モニターがついてない状況やVF/pVTを確認した際に医師がいなかったり、マニュアル式除細動器が置いていない場合とかになりますね。
うんうん。
研修でのシミュレーションをそのままやると弊害が多くなるし、現実的じゃない。
以上をまとめると
院内のBLS研修は臨床で必要となる環境や流れの部分が無視されていることが多いような気がします。
以前から院内心停止の8割はショックが不要な初期調律(リズム)と言われています。
除細動の"不適応"であるPEA(無脈性電気活動)を理解してないと、CPRが遅れる可能性は否めません。
除細動が1分遅れることに救命率が下がることはよく聞きますが、PEAやAsystoleのときは「早い段階でアドレナリンを投与」が推奨されており、自己心拍再開率に影響するのは知っていますか?
百歩譲って、従来のBLS研修を受講したとします。
でも、業務上必要となるALSのトレーニングはいつやるのでしょう?
看護師の多くが心停止発見時の数分間でCPRができたとして、その後の予測がついてない、それに対応した訓練を定期的にしていないって怖くないですか?
前述した論文でも、VF/pVTまでの初回除細動時間は中央値5分(2〜14分)と紹介されており、海外の中央値0分(0〜0分)と比較しても除細動が迅速に使用できなかった可能性があるのは否めません。
BLSのトレーニングをしているのになぜでしょう?
そして、現実では実際に薬剤を間違えて「蘇生時にアドレナリンを投与するところノルアドレナリンを投与した事例」という事故が起こっています。
さらには看護師のBLSに過失が認められた裁判すらあります。
https://blog.bls.yokohama/archives/2926.html
まとめ
従来のBLS研修を医療従事者に提供してること自体無理があります。
CPRとAEDができるようになった気がするだけで、業務で必要となるスキルが抜け落ちています。
これは院外心停止に対応する市民向けBLSと医療従事者向けが混同されて普及してしまった結果であり、院内心停止への対応は全く別物と考えるべきです。
必要なことはわかったけど、時間とかお金のコストの面で厳しいんじゃない?
なるほど。
だったら従来のBLS研修を止めたらいい!
最初から院内に役立つ内容にするんだ。
心電図モニター、救急カートを使用した研修にすれば良いんだよ。
ここで教育にかかるコストと、急変対応で降りかかるコストを比べてみてください。
訴訟リスク、インシデント/アクシデントの検討や改善の時間や負担などなど。
更に、2次救命処置(ALS)の訓練を個人の裁量に委ねている現状から考えると、最初から学習環境を作ったほうがお互いにWin-Winな気もします。
ただし、コストや時間の問題というより、市民向けBLSと混同してミスマッチを起こしていることに気づかない認識の部分が大きな要因なのかなとも思います。
では、改めて
皆さんはどんなBLS研修を受けてますか?
または指導していますか?
そして、そのBLS研修は臨床で役立ってますか??