「BLSの研修は受けた。……なのに、いざ現場で急変に立ち会うと体が動かない。」
―そんな経験、思い当たりませんか?実はこの「急変対応で固まってしまう」現象、個人の能力不足ではなく教育と臨床の圧倒的なミスマッチが原因だという指摘があります。心停止時にCPR開始の遅れが転帰悪化につながるのは救命の世界では常識で、実際成人心停止では早期の質の高いCPRと迅速な除細動こそが転帰改善のカギだとガイドラインも謳っています。
とはいえ、その大前提を叩き込む肝心のBLS研修自体が現場ニーズとズレていたら…笑えませんよね。
ガイドライン2025が強調する『早期ALS』と『換気の質』
2025年版の蘇生ガイドラインでも、「可能な限り早く高品質のCPRを行い、速やかに除細動を」という救命の基本原則は不変です。しかし同時に、従来以上にALS(高度救命処置)の早期介入や換気の質の重要性が強調されています。ガイドラインでは、院内のコードチームはALS訓練を受けたメンバーで構成すべきと明記され、高度な気道確保や薬物投与などALSの実施が患者転帰の改善に不可欠だとされています。ベッドサイドに近い看護師にとってALSまで含んでいない市民向けBLSなんて役立たないのは当然。また人工呼吸についても、「胸がしっかり動く程度の一回換気量を確保し、過換気・低換気を避けよ」と具体的な推奨が明示されています。
効果的な換気と胸骨圧迫の両立が転帰改善に関連するとのエビデンスも示され、もはや換気は「おまけ」では済まされません。
現場BLS研修はまるで市民講習?

ところが、こうしたガイドラインの意図に反して、病院内で行われているBLS研修は相変わらず市民向け講習と大差ないのが実情です。
院内急変の様相は院外とは大きく異なります。国立循環器病研究センターの調査では、院内心停止457例の分析においてVF/VTなど除細動が必要な不整脈は全体の36%に過ぎず、最多はPEA(無脈性電気活動)44%だったと報告されています。さらに89%の症例では心電図モニターがすでに装着済みだったともいいます。
呼吸不全や循環不全、代謝異常で徐々に悪化して心停止に至るケースが多く、電気ショックが効果を発揮しないPEAや心静止が圧倒的というわけです。
それにもかかわらず、現場のBLS研修といえば今なお、「院内で倒れている人を発見→反応確認→応援要請とAED手配→胸骨圧迫開始→AEDの指示でショック!」という市民救助者さながらの手順ばかり練習していないでしょうか。これでは残り6割以上を占める非除細動例(PEA/心静止)や、モニター装着下での急変にどう対処するかが丸ごと抜け落ちてしまいます。実際、現在のBLS研修はこの「36%のケース」(VF/pVT対応)に対してAEDの音声指示を待つ訓練に特化しすぎで、残り大半の状況で何をすべきか教育されていないとの指摘もあります。手順は頭に入っていても、いざモニター波形を見て次のアクションを判断する段階になるとフリーズしてしまう――そんな現象が起きるのも無理はありません。
従来のBLS教育が「反応がなければ呼ぶ・押す・AED」という「点」のスキル習得に終始し、状況に応じて動きを組み立てる「臨床の線」の判断力を養う機会が乏しかったためです。
例えばモニターにPEAの波形が出ているなら、AEDの「解析中です」を律儀に待つ必要はありません。ただちにCPRを続行しながら原因検索とアドレナリン投与の準備に取りかかるべきです。本来それが医療者のBLS対応の当たり前ですが、そんな基本的判断さえ研修で教わっていなければ、現場で動けなくて当然でしょう。
BLS研修アップデートの見直しポイント
では、このミスマッチを埋め、院内BLS研修をより実践的なものにアップデートするにはどうすれば良いでしょうか。ここではそのポイントをいくつか提案します。
“全員一斉BLSトレーニング”問題をやめる−
医療事務さんも看護師も、新人研修で同じマネキンを囲んで「押して!離して!1、2、3…」と声を出す。この光景、もはや安全衛生委員会の防災訓練と紙一重です。もちろん医療職以外のスタッフがBLSを学ぶ意義はあります。でも、看護師は「現場で使う責任のある側」。必要なスキルレベルや判断負荷は明らかに別枠です。少なくともグループは分けるべきだし、シナリオも役割も切り分けた構成にしないと、結局は誰も“実戦に強いBLS”を学べない研修になってしまいます。
シナリオの多様化 –
毎回「突然倒れて心停止」のパターンばかりでなく、呼吸停止や徐々に容体が悪化して心停止に至るケース、さらには「心停止かどうか判断に迷う」グレーな状況など、バリエーション豊かなシナリオを織り交ぜましょう。現場さながらに「心停止か否か」の判断から訓練することで、より実戦的な対応力が身に付きます。
モニター波形を読む訓練 –
AEDの音声任せにせず、自分たちでモニターの波形を見て「ショックが必要か不要か」を判断する練習を取り入れましょう。波形を直視して即座に「ショックだ」「いやまず薬剤だ」と動けるよう、判断力を養うことが重要です。
救急カートを活用 –
BVM(バッグバルブマスク)やアドレナリン(ボスミン)など、コードブルーで使う器材・薬剤を実際に手に取る訓練も欠かせません。胸骨圧迫を継続しながら必要物品を速やかに準備する、といったチームプレーをシミュレーションで身につけておけば、ALSへの移行もスムーズになるでしょう。
換気スキルの強化 –
胸骨圧迫だけで満足せず、バッグバルブマスク(BVM)換気のトレーニングにも時間を割きましょう。ガイドラインが求める適切な換気量・頻度でしっかり換気できているか、フィードバックデバイスや複数人での相互チェックを活用して確認します。指導者も手技に対する解像度が悪い場合も多くフィッティングやポジショニングなどが適していないまま「よし」とされているケースもよく見かけます。結果、臨床では誰も換気を評価していないことに繋がってますので、過換気・低換気も含めて研修段階から意識して避けることで、実際の蘇生の質も向上するはずです。

消防に依頼するBLS研修 –
もう一つ、BLS研修の“あるある”を挙げるなら―
「消防に来てもらって研修する」という謎スタイル。
地域連携、大事です。救急のプロとしての経験も豊富でしょう。
でも彼らが想定してるのは市民向けの一次救命処置。
院内の医療従事者に必要なのは、モニター波形を見て判断し、BVMや薬剤準備に即応できる力です。
消防の訓練メニューは「心停止前後の微妙なシーン」「ALSチームへの橋渡し」「PEAへの初動」なんて想定してません。
そこに丸投げして“院内BLS研修やった感”だけ出してると、現場のズレはますます広がるばかり。
本気で“動ける”人材を育てたいなら、医療職が自ら設計して、自施設の急変対応フローと結びつけた研修を作るべきです。
消防が悪いわけじゃない。用途が違うだけなんです。
最後に:怖くても、動けるようになるために
BLS研修が実践とかけ離れていれば、急変対応を「怖い」と感じてしまうのも無理はありません。でもそれはあなたが不適格なわけではなく、教育システムが現場のリアルに追いついていないだけです。研修を現場目線に刷新し、「手順の先の判断力」を養うことさえできれば、たとえ心臓バクバクでも身体が動いてくれる医療者が増えるはず。せっかく医療者が集まって行う研修なのですから、「市民レベル止まり」ではもったいありません。BLS研修を臨床に即した形にアップデートし、次の急変(コードブルー)ではもう固まらずに動ける自分を目指しましょう。
ちなみに、この記事をここまで読んで「うちのBLS研修、まさにそれ…」と背筋が冷えた担当者さん、
今すぐ研修をアップデートしたくなった方へ耳寄り情報です。
現場目線・ガイドライン準拠・看護師の臨床スキルに特化したBLS研修プログラム、
NCLS(Nursing Cardiac Life Support)をご存知でしょうか?
✔ 看護師の判断・初動スキルに特化した設計
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…と、単なるAED押し練習とは一線を画す内容です。
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