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【G2025対応】院内BLS研修だけでは急変に対応できない理由|看護師がNCLS・ACLSで本当の力をつけるまで

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投稿日:2026年4月11日 / 最終更新日:2026年4月20日
執筆・監修:急変対応.net 編集部(AHA ACLSファカルティ / 診療看護師)
本記事はAHA CPR/ECCガイドライン2025、JRC蘇生ガイドライン2025、国立循環器病研究センター調査データに基づいて執筆しています。
【30秒でわかる】この記事の要点
・蘇生ガイドライン2025(G2025)は「早期ALS・換気の質」を強調
・一方、日本の院内BLS研修の多くは市民向け講習と大差ないレベル
・院内心停止の44%はPEA(国循データ)、除細動が必要なVF/VTは36%のみ
89%の症例はモニター装着済みで発見される
・それなのに研修は「倒れている人を発見→AED→ショック」の市民フローばかり
・現場ニーズとの乖離を埋めるのが、看護師特化のNCLS・医師看護師連携のACLS
・研修を「ゼロ」にせず「起点」にする発想が、急変対応力を育てる
この記事の結論
この記事は、看護教育のミスマッチを指摘しつつ、アップデートすべき5つの研修改善点を提示します。

蘇生ガイドライン2025が示す「早期ALS」と「換気の質」

なぜ今、院内BLS研修を見直す必要があるのか。その根拠は蘇生ガイドライン2025(G2025)で強調されている2つのキーワードにあります。
KEYWORD 01
早期ALSへの移行
心停止発生からいかに早く二次救命処置(ALS)に移行できるかが、転帰を左右します。

ALS移行には、モニター波形の判断・薬剤投与準備・高度気道管理の介助など、BLSの範囲を超えたスキルが必要です。
KEYWORD 02
換気の質の評価
過換気・低換気を避け、「胸がしっかり動く」換気を行う技術が重視されています。

これにはBVM(バッグバルブマスク)の正しいフィッティング・ポジショニングと、相互評価する仕組みが欠かせません。
ここで重要な問いかけ
この2つのキーワード、あなたの病院の「BLS研修」で到達できているでしょうか?
・モニター波形を見て「これはPEAだ、即CPRだ」と判断できる研修になっていますか?
・BVM換気の質を具体的に評価する仕組みがありますか?
・胸骨圧迫しながら薬剤を準備する連携を訓練していますか?
多くの院内BLS研修は、これらに答えられていません。なぜなら、内容が「市民向けBLS講習」で満足しているからです。

最大のギャップ|「心停止ありき」の研修 vs 臨床の現実

市民BLS研修
「目の前に倒れている人がいる」

= 最初から心停止と確定している前提でスタート

→ 反応確認→応援→CPR→AED
臨床の現実
「あれ、なんか患者さん様子変…」

= 心停止かどうか"判断"から始まる

→ 意識?呼吸?脈?急変?様子見?
臨床で一番難しいのは「これは心停止なのか?」の判断
でも市民BLS研修は、この判断がすでに済んだ場面からスタートするので、最初の判断力が育たないまま終わってしまいます。
市民向けBLSで到達できる
・反応確認
・応援要請
・質の高い胸骨圧迫(深さ・速さ)
・AEDの使用方法
・人工呼吸の基本
市民向けBLSでは到達できない
・「心停止かどうか」の判断
・モニター波形の判断(PEA/心静止/VF/VT)
・BVM換気の質の評価
・薬剤準備・投与の連携
・高度気道管理の介助
・ALSチームへの情報伝達(SBAR)
・早期ALS移行の判断
重要な事実
G2025が重視する「早期ALS」と「換気の質」は、完全に右側の領域です。

にもかかわらず、日本の多くの院内BLS研修は左側の市民向けBLSの内容で満足しているのが現実です。

なぜこのミスマッチが看護師にとって重要か

ベッドサイドで一番先に患者に触れるのは看護師です。つまり…
ALSへの橋渡し
初動対応から医師到着までのつなぎ役を看護師が担うシーンが多い
換気の質
BVM操作する看護師が換気の質を左右する
モニター波形の判断
初動を決める波形の読み取りが看護師の役割
市民向けBLS(AED任せの手順)だけでは、この期待には応えられません

院内急変の実態|「倒れている人発見」ではない

多くのBLS研修が教える「倒れている人を発見 → AED → ショック」というシナリオ。これが実際の院内急変とどれだけズレているか、国立循環器病研究センターの調査データで見てみましょう。

院内心停止457例の分析(国循調査)

PEA(無脈性電気活動)
44%
最多
心静止(Asystole)
20%
除細動非適応
VF/無脈性VT
36%
除細動適応
モニター装着済み発見
89%
病棟・ICU等

この数字が意味すること

1. AED/除細動が必要なのは36%のみ
→ 残り64%はショックしない対応が必要
2. 89%はモニター装着済み
→ 「発見して駆けつける」ではなく、モニター波形を読むシーンが圧倒的多数
3. PEAが最多
PEAは除細動非適応質の高いCPRと原因検索(5H5T)が救命の鍵
なのに研修は…
ほとんどの院内BLS研修は、倒れている人を発見→反応確認→応援要請・AED依頼→胸骨圧迫→AED音声指示でショックという市民救助者とほぼ同じフローを練習させています。
これでは64%を占めるPEA/心静止や、モニター装着下での急変にそもそも対応できないのは当然です。
必要なのは「判断」の訓練
・モニター波形を見てPEAを疑い、脈拍確認を含めて即CPRへ移行できるか
・モニター波形や医療用除細動器環境で、リズム判定とCPR中断最小化を理解できるか
・原因検索(5H5T)とアドレナリン投与の準備を並行できるか

これらは現行の院内BLS研修ではほぼ教えられていません。判断力の訓練こそが、現場で「動ける看護師」を作ります。

院内BLS研修が「役に立たない」3つの理由

研修を受けても現場で動けない…その背景には、3つの構造的な問題があります。
理由 01
内容が一次救命処置どまりで、実際の急変に対応できない
院内BLS研修で学ぶのは主に「胸骨圧迫」と「AEDの使い方」。もちろんこれは重要な基礎ですが、実際の急変現場ではその先の対応が必要になります。

・心停止の種類によってアルゴリズムが違う
・薬剤投与や高度気道管理への対応
・医師・他のスタッフへの的確な情報共有

BLS研修はあくまで「入口」であり、現場で求められる判断力・対応力を養う内容にはなっていません。
理由 02
年1回・数十分では、スキルは定着しない
研修は年に1回、時間にして30〜60分程度というケースがほとんど。しかし人間のスキルは、反復しなければ確実に劣化します。

研究でも、CPRの技術は習得から数週間〜数カ月で急速に低下することが示されています。年1回の研修では、次の研修が来る頃にはほぼリセットされた状態になっているのが現実です。
理由 03
研修後のフォローアップがほぼ存在しない
院内研修が終わった後、スキルの定着を確認する仕組みが整っている施設は多くありません。

・研修後に振り返りの機会がない
・「できていない部分」を指摘してもらえる場がない
・実際の急変後にチームで検討・改善する文化がない

学んだことを現場に活かすための橋渡しが存在しないまま、スタッフは日々の業務に戻っていきます。
「研修を受けたのに動けなかった」は、あなたのせいではない
急変のとき体が動かなかった、頭が真っ白になった——それは意識が低いからでも、努力が足りないからでもありません
学んだ環境と、実際の現場が、あまりにも違いすぎるからです。
マネキンで一人で練習することと、本物の患者さんが目の前にいる中でチームで動くことは、まったく別のスキルを要求します。院内研修の多くは、その「差」を埋める設計になっていません。

院内BLS研修を「動ける研修」にする5つのアップデート

では、現場ニーズと研修のミスマッチを埋めるには、具体的に何を変えればいいのでしょうか。
UPDATE 01
全員一斉BLSを卒業する
現状の問題
医療事務も看護師も一緒に「押して!離して!1、2、3…」。この光景は、安全委員会の防災訓練と紙一重です。

もちろん多職種がBLSを学ぶ意義はあります。でも、看護師は「現場で使う責任のある側」。必要なスキルレベルや判断負荷は明らかに別枠です。
改善案
職種・経験年数でグループを分ける
・看護師グループにはモニター波形・薬剤準備・ISBAR報告を必須要素に加える
・事務・医療助手グループは従来のAED中心でOK
UPDATE 02
シナリオを多様化する
現状の問題
「突然倒れて心停止」のパターンばかりでは、院内急変の64%(PEA/心静止)に対応できません。
改善案
・呼吸停止からの心停止
・徐々に状態悪化 → 心停止
「心停止か?」判断に迷うグレーな症例
・モニター装着下での急変発見
UPDATE 03
モニター波形を読む訓練を入れる
現状の問題
AEDの音声任せで、自分で判断する訓練がない。89%がモニター装着済みなのに、モニター波形を読む練習はほぼゼロ。
改善案
・波形を見て「ショック適応/非適応」を即判断
・PEA・心静止・VF・pVTの識別と脈拍確認
・医療用除細動器のマニュアルモードでCPR中断最小化
UPDATE 04
救急カート・薬剤を実際に触る
現状の問題
胸骨圧迫だけで満足して、実際の救急カートを使った訓練がないと、本番で固まります。
改善案
・BVM(バッグバルブマスク)の実技
・アドレナリン(ボスミン)アンプルを開ける
・「胸骨圧迫継続しながら薬剤準備」のチームプレー
・ALS移行のスムーズさを訓練
UPDATE 05
換気スキルを本気で評価する
現状の問題
G2025が求める「過換気・低換気を避ける」を実践するには、BVM換気の質を評価する仕組みが必要ですが、ほぼ存在しません。
改善案
・フィードバックデバイスの活用
・複数人での相互チェック
・フィッティング・ポジショニングの修正
・「胸がしっかり動く一回換気量」の体感
よくある落とし穴
指導者自身がBVM手技に慣れていないと、フィッティング不良でも「よし」とされてしまいます。結果、臨床で誰も換気の質を評価していない状況が起きています。

もうひとつの盲点|「消防に依頼するBLS研修」

院内BLS研修の"あるある"として、「消防署に来てもらって研修する」という施設が少なくありません。
地域連携は大切です。救急のプロとしての経験も豊富でしょう。
でも、消防が想定しているのは市民向けの一次救命処置です
院内の医療者に必要なのは:
・モニター波形を見て判断する力
・BVMや薬剤準備への即応力
・ALSチームへの橋渡し

これらは、消防の訓練メニューには入っていません。「心停止前後の微妙なシーン」「PEAへの初動」「多職種連携」なんて想定外です。
そこに丸投げして「院内BLS研修やった感」を出しているだけだと、現場のズレはますます広がります。
消防が悪いわけではありません。用途が違うだけです。本気で「動ける人材」を育てたいなら、医療職が自ら設計して、自施設の急変対応フローと結びつけた研修を作るべきです。

NCLS・ACLSが院内研修と根本的に違う点

NCLS・ACLSは、院内BLS研修とは設計思想そのものが違います。6つの比較項目で見てみましょう。
比較項目
院内BLS研修
NCLS・ACLS
内容のレベル
一次救命処置(BLS)どまり
二次救命処置まで網羅
実施頻度
年1回・数十分
集中的に1〜2日
シナリオの質
単純な手順確認が中心
実際の急変に近いシナリオ
チーム連携訓練
ほぼなし
チームダイナミクスを重点訓練
フォローアップ
ほぼなし
更新講習・復習の機会あり
指導者の質
院内スタッフ(ばらつきあり)
インストによる一貫した指導

NCLSで学べること|「動ける看護師」になる

NCLS(Nursing Cardiac Life Support)は、看護師が急変の初動で自律的に動くための力を養う講習です。
・急変の早期認識と初期対応の手順
・除細動器(AED・マニュアル)の確実な操作
・医師への適切な情報伝達(SBARなど)
・チームの中での自分の役割の理解
・蘇生後のケアと患者観察
単なる手順の暗記ではなく、「判断して動く」経験をシミュレーションで積むことが、院内研修との最大の違いです。

ACLSでさらに深める|多職種チームで戦う力

ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)は、医師・看護師・救急救命士など多職種が共通言語で急変に対応するためのプログラムです。
院内研修では経験できない「チームとして動く感覚」を、緊張感のある実践的なシナリオの中で繰り返し練習します。

NCLS修了後のステップアップとしても最適です。

受講者の声

病棟看護師・3年目
「院内研修では毎年同じことをやっているだけで、正直身についている気がしなかった。NCLSを受けて初めて、急変時に何をすべきか頭の中で整理できた感覚がありました」
ICU看護師・4年目
「研修後のフォローがないまま現場に戻るのが不安だったので、自分でACLSを受けに行きました。職場の先輩に相談したら、むしろ背中を押してもらえた。もっと早く受ければよかった」

よくある質問(FAQ)

Q1. 院内BLS研修を否定しているのですか?
いいえ、否定していません。「それだけでは足りない」というのが主張です。BLS研修は大切な入口ですが、病院内での蘇生は二次救命処置がほとんどです。そこに対応できる実践的なトレーニングが必要という主張です。
Q2. G2025で何が大きく変わりましたか?
看護師に関わる主な変更は:

早期ALS介入の重要性が強調(ALS訓練済みチーム構成)
換気の質(過換気・低換気を避ける、一回換気量の明示)
チーム連携(closed-loop communication)
post-arrest careの詳細化

これらは「市民向けBLS」では学べない領域です。
Q3. 消防に依頼するBLS研修は本当にダメなんですか?
用途が違うだけで、悪いわけではありません
ただし消防が実施するのは市民への救命講習です。さらに税金がベースです。

同じ「BLS」でも求められるレベルが違うので、院内医療者向けには別の研修を用意すべきです。
Q4. 院内心停止の44%がPEAというデータはどこから?
国立循環器病研究センターの院内心停止457例の分析から引用しています。

・PEA:44%
・心静止:20%
・VF/VT:36%
・モニター装着済み発見:89%

VF/VTが最多と思っている現場は多いですが、実際は非ショック対象が64%です。循環器病院でなければ非ショックリズムはさらに増える可能性があります。
Q5. NCLSとACLSの違いは何ですか?
NCLS:看護師特化。モニター判断・初動・BVM換気・薬剤準備などを看護師の役割で学ぶ
ACLS:多職種連携。医師・看護師・救急救命士が共通言語で動くプログラム

NCLSで「動ける看護師」に → ACLSで「チームで動く」に発展、が理想的な流れです。
Q6. 1〜3年目の看護師が今すぐ受けるべきですか?
はい、早いほうが良いです

理由:
・スキル定着には反復学習が必要(1年に1度の院内研修では足りない)
・現場で「判断できない悔しさ」を経験する前に判断力を身につけた方が楽
・早く受ければ受けるほど、院内での役割拡大も早い
Q7. 研修を受けても現場で動けるか不安です
不安は当然です。ただし、NCLS・ACLSのシミュレーションは判断プロセスの訓練を重視しているため、「手順暗記」で終わる院内研修とは動けるようになる確率が全く違います。

受講者の声でも「初めて急変時に頭の中が整理できた」という感想が多数寄せられています。

まとめ|院内研修を「ゼロ」にせず「起点」にする

院内BLS研修を否定したいわけではありません。ただ、それだけでは足りないというのが現実です。
研修で学んだ基礎を本物の力に変えるには、より実践的な環境での訓練と、継続的なフォローアップが必要です。
NCLS・ACLSはその「次のステップ」として設計されています。院内研修を起点に、もう一段上の急変対応力を手に入れてください。

NCLS・ACLS受講のお申し込み|学習オプション

急変対応.netでは、院内研修の先にある実践的な学習機会を4つご用意しています。
NCLSコース
看護師に必要な新しいBLS
看護師特化のシミュレーション
・モニター判断+SBAR報告
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・1,041人以上が受講
ACLS 1日コース
AHA公式プロバイダー認定
BLS資格不要で受講可能
・1日完結で国際資格取得
・多職種連携訓練
・全国8地域で開催
NCLS-EP
急変の「予防」に特化
・心停止「前」の早期発見
・NEWS2・臨床推論
・NCLS修了者向け
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この記事を書いた人・コースを担当する講師

万波 大悟
MANAMI DAIGO
急変対応.net 代表 / 診療看護師(NP)
資格・肩書き
現職
診療看護師(NP)
専門資格
元 救急看護認定看護師
インストラクター
AHA-ACLSファカルティ
(提携ITC: JSISH-ITC)
学会活動
日本救急看護学会 評議員
経歴・実績
・救急外来・ICUでの臨床経験
・全国でACLS・NCLSコースを開催
・看護師向け急変対応教育の専門家として、医療機関・各地域での講演多数
NCLS・ACLSコースでの指導スタイル
「手順を覚える」ではなく「判断して動ける」看護師を育てることに特化。シナリオベースで実際の急変を想定した訓練を行い、受講者が現場で即戦力になることを目標としています。
「院内研修で学んだことを"起点"にして、NCLSで判断力を磨き、ACLSでチームとしての連携を深める。この3段階で、どんな急変にも動ける看護師が育ちます」

提携団体

JSISH-ITC
AHA公式ACLS/BLS/AED/FA講習
イーエヌアシスト
栃木
セーブライフ神奈川
神奈川

参考文献

・American Heart Association. 2025 Guidelines for CPR and ECC
・JRC蘇生ガイドライン2025(日本蘇生協議会)
・国立循環器病研究センター. 院内心停止症例の分析(457例)
・医療従事者向けBLSプロバイダーマニュアル(AHA)
・日本救急医療財団「救急蘇生法の指針2020(医療従事者用)」

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