急変対応マニュアル

 医師の「ボスミン!」で焦らない。看護師が絶対に覚えるべき急変時薬剤「3選」と、ミスの防ぎ方

投稿日:

 急変の現場で一番怖いのは「薬剤の準備」ではありませんか? 「アドレナリン1mg入れて!」と指示が飛んだ時、あなたの手は震えずにアンプルを折れますか?

実は、急変時に使う薬剤は限られています。あれもこれも覚える必要はありません。 今回は救急の現場を知り尽くした専門家が、「これだけは暗記必須」という3つの薬剤と、新人看護師が陥りやすい「名称の罠(ボスミン問題)」について解説します。


1.最大の罠!「ボスミン」と「アドレナリン」は同じです

現場のリアル: ベテラン医師は「ボスミン」と叫び、新人看護師は「アドレナリンしかありません!」とパニックになる。これは現場あるあるですが、一刻を争う場面では致命的。

結論: 「ボスミン = アドレナリン」と脳に刻む。

使い分けのポイント:

  1. 心停止(CPA)時: 1mg(1A)をそのまま静注+生理食塩水20mlで後押し。
  2. アナフィラキシー時: 筋肉注射(筋注)。ここを間違えると大変なことになるため、必ず「投与経路」を医師に復唱確認(Call back)するテクニック。

【ここが最重要!プロの視点】 

アドレナリン」の隣に、よく似た名前の**「ノルアドレナリン」**が置いてありませんか? この2つ、名前は似ていますが役割は別物です。ここを混同すると致命的なミスに繋がります。

  • アドレナリン(ボスミン):
    • 役割: 止まった心臓を叩き起こす(強心・昇圧)。
    • 急変時の使い方: **静脈注射(ワンショット)**で一気に入れる。
  • ノルアドレナリン:
    • 役割: 下がった血圧をギュッと締め直す(昇圧メイン)。
    • 急変時の使い方: 蘇生して心拍が戻った後(ROSC後)に、シリンジポンプ等で持続投与することがほとんど。

【ここが危険!】 「アドレナリン持ってきて!」と言われて、焦って「ノルアドレナリン」を静注してしまう……。あるいはその逆。 これは実際に起きているインシデントです。

プロの回避術: アンプルの場合は手に取った瞬間、「『ノル』が付いていないか?」を必ず確認してください。

https://www.med-safe.jp/pdf/report_2016_4_T002.pdfより

2.徐脈の特効薬「アトロピン」。でも投与前に“あれ”を確認して!

いつ使う?: モニターを見て「脈が遅い(徐脈)」とき。

準備のコツ: 硫酸アトロピンは1Aが0.5mg
国内は0.5mgだが、AHAの場合は1mgとなっている点は注意。
「1mg入れて」と言われたら「2本」必要。

【ここが最重要!プロの視点】 

「徐脈だ!アトロピン!」と飛びつく前に、必ずSpO2(酸素飽和度)と呼吸を見てください。 実は、徐脈の原因が「低酸素(Hypoxia)」であるケースが非常に多いのです。心臓そのものが悪いのではなく、酸素が足りなくて心臓が止まりかけている状態です。この場合、アトロピンで無理やり心拍数を上げようとしても効果は薄く、むしろ有害なことさえあります。 優先すべきは「薬」ではなく「酸素(Airway/Breathing)」です。

  • SpO2は下がっていませんか?気道は通っていますか?
「先生、レート40台です!SpO2も80%と低いので、まず換気補助します!」 こう言える看護師こそが、本当に患者を救える看護師です。

3.不整脈には「アミオダロン(アンカロン)」

アミオダロンとリドカインは、心停止(特に電気ショックに反応しない心室細動:VFや無脈性心室頻拍:pVT)の治療において重要な抗不整脈薬です。

心停止時(VF/無脈性VT)の投与量

心停止アルゴリズムにおいて、電気ショック(除細動)と胸骨圧迫を行ってもVF/無脈性VTが続く場合に投与が考慮されます。アミオダロンが第一選択ですが、リドカインでも代用できます。

アミオダロン(アンカロン®)

  • 対象: 電気ショック抵抗性のVF / 無脈性VT
  • 投与タイミング: 通常、3回目の電気ショックの後などに投与が考慮されます。
  • 初回投与量:300 mg を静脈内(IV)または骨髄内(IO)でボーラス投与(急速投与)。
    • ※5%ブドウ糖液20mL等で希釈しますが、心停止の緊急時は原液でボーラス投与されることあるようです。所属施設や医師に事前に確認しておきましょう。
  • 追加投与: 数分後(3~5分後)もVF/無脈性VTが持続する場合、150 mg を1回のみ追加投与可能です。

リドカイン(キシロカイン®など)

  • 対象: アミオダロンが使用できない場合の代替薬として、電気ショック抵抗性のVF / 無脈性VT
  • 初回投与量: 1 ~ 1.5 mg/kg を静脈内(IV)または骨髄内(IO)投与。
  • 追加投与: VF/無脈性VTが持続する場合、5~10分間隔で 0.5 ~ 0.75 mg/kg を追加投与可能です。
  • 最大投与量: 合計で 3 mg/kg まで。

知っておくべき知識と看護のポイント

心停止の緊急時だけでなく、自己心拍再開(ROSC)後の維持治療においても、それぞれの薬剤の特性を理解しておくことが重要です。

【アミオダロン】の重要知識

  1. 必ず「5%ブドウ糖液」を使用する(生理食塩液は不可!)
    • 最重要ポイントです。生理食塩液と混合すると白濁・沈殿し、効果が失われるだけでなく血管を詰まらせるリスクがあります。希釈はもちろん、側管から投与する際もメインの点滴が生理食塩液ではないか確認が必要です。
  2. 可能な限り中心静脈から投与する
    • 血管刺激性が強く、静脈炎を起こしやすい薬剤です。心停止時は末梢ルートでもやむを得ませんが、ROSC後などに持続投与を行う場合は、速やかに中心静脈ルート(CV)を確保し、そこから投与することが推奨されます。末梢から投与する場合は、太い血管を選び、漏出がないか頻回に確認します。
  3. 作用機序と副作用
    • カリウムチャネルだけでなく、ナトリウムやカルシウムチャネル、α・β受容体も遮断するマルチチャネルブロッカーです。
    • 急性期の副作用: 血圧低下徐脈。急速投与時や持続投与開始直後は、バイタルサインと心電図モニタリングを厳重に行います。
    • 慢性期の副作用(維持投与時): 間質性肺炎(致死的になることもあり、咳、呼吸困難、発熱に注意)、甲状腺機能異常、肝機能障害、角膜色素沈着など。半減期が非常に長い(数週間~数ヶ月)ため、投与中止後も副作用が出現する可能性があります。

【リドカイン】の重要知識

  1. アミオダロンの代替薬という位置づけ
    • 近年のガイドラインでは、心停止時の第一選択はアミオダロンとなっています。リドカインはアミオダロンがない場合に使用されます。
  2. リドカイン中毒(中枢神経症状)に注意
    • 血中濃度が高くなると、中毒症状が現れます。
    • 初期症状: 口唇や舌のしびれ、めまい、耳鳴り、不安感など。患者さんの訴えに注意します。
    • 重篤な症状: 意識障害、痙攣、呼吸抑制、血圧低下、徐脈、心停止。
  3. 代謝・排泄の影響
    • 肝臓で代謝されるため、肝機能低下患者や高齢者、心不全患者では血中濃度が上昇しやすく、中毒のリスクが高まります。持続投与中は特に注意深い観察が必要です。

まとめ

心停止の現場では、迅速かつ正確な薬剤投与が求められます。特にアミオダロンの「5%ブドウ糖液での希釈(生食不可)」は、絶対に間違えてはいけないポイントです。また、ROSC後はこれらの薬剤を持続投与するケースも多いため、それぞれの副作用や観察ポイントを理解し、異常の早期発見に努めることが重要です。

薬剤投与で看護師が守るべき「3つの鉄則」

  1. 口頭指示は必ず復唱(Call back)する: 「アドレナリン1mg、静注ですね?」とオウム返しするだけでミスは激減する。
  2. 空アンプルは捨てない: 蘇生が終わった後、「何本使ったか」のカウントと記録に絶対必要。ベッド上に放り投げておくか、トレイにまとめる。
  3. 一番太いルートから入れる: どんなに良い薬も心臓に届かなければ水と同じ。末梢確保時は20G以上、できれば上肢から。

まとめ

q急変時の薬剤は「魔法」ではありません。適切なタイミングとルートで入って初めて効果を発揮します。 まずは次の夜勤で、救急カートの1段目を開けて「アドレナリン(ボスミン)」のシリンジ(アンプル)を手に取ってみてください。 なんとなく点検してた救急カートの薬剤の解像度を高めていくことが、いざという時の手の震えを止めてくれます。


-急変対応マニュアル

Copyright© 急変対応.net , 2026 All Rights Reserved Powered by STINGER.