臨床で気管挿管をする際に注意しないといけない重大な合併症として、食道挿管が挙げられます。
食道挿管の場合、気づけないと致命的ですし訴訟に発展する可能性も高いので、絶対に回避しなければなりません。
実際、食道挿管をキーワードにインシデント/事故事例を検索するとたくさんヒットします。
食道挿管のピットフォールは急変対応を語る上で、医師、看護師ともに遭遇する可能性が高いことから今回まとめました。
http://www.med-safe.jp/mpreport/view/A5F20E91D98034CC7
http://www.med-safe.jp/mpreport/view/AFF453E753821FADC
はじめに
気管チューブの正しい位置確認としては
□視診による胸郭の上がり
□チューブの曇り
□聴診による呼吸音の確認
などがあります。全てを組み合わせたとしても万全ではなくAHAと日本の蘇生ガイドラインともに、"呼気CO2モニター(ETCO2モニター:End tidal CO2)を推奨しています。
※なお、レントゲンも確認してると思いますが、気管チューブの深さは分かるものの、食道と気管は重なっているためレントゲンだけでの評価は困難です。
ETCO2モニターとは
呼気に含まれるCO2を検出する機械です。
挿管チューブに装着し、心電図モニターと接続することでCO2の値が検出されます。基準値はざっくり言うと血中のCO2:35-45と一緒です。
食道挿管だった場合、通常食道にCO2は存在しないので”0”という値を示します。一方、気管に留置されている場合は、数字が表示されます。
もちろんETCO2の値だけでは片肺挿管には気づけませんし、ETCO2と合わせて、呼吸音や呼吸音の左右さ胸郭挙上やチューブの曇りなど合わせて確認していきます。
ETCO2については分かったけど、うちには無いので聴診で確認するしかない。
そもそも挿管するのは医師だからなぁ。
そうなんです。
まずETCO2を表示するためのケーブルが高価です。
また、手術室では使ってたとしてもどの部署にでもあるとは言えない状況があります。
これまで私もそう考えてたので強く推奨してきませんでしたが、急変時に起こるエラーって、色々な要因が原因で起こらます。食道挿管に関して言えば、防ぐ一つの手段がETCO2モニターですのであるなら絶対使ったほうが良いです。これを記事にしたのには理由があります。
急変時におけるETCO2の真価を考える
急変時(非心停止含む)の気管挿管に関する問題点をまとめました。
□あらゆる処置が同時並行で進行する
□心停止に移行する可能性もある
□急変対応に慣れていない医療従事者問題
□covid-19を踏まえて急変現場の人員制限や気管挿管の優先度の上昇
このように普段とは違う環境・心理状態で気管挿管した場合、聴診、胸郭の挙上など従来の確認方法は、”人”に依存しています。
確認が抜けてしまうリスクもありますし、判断を誤る可能性もあります。
挿管する場面を一部始終見ていられますか?
途中で心停止(PEA)に移行する可能性も十分あります。
心停止を含めて患者の状態が悪い場合、挿管後の評価としてSpO2は当てになりません。
一方、ETCO2モニターをルーチンでつけるシステムになっていた場合、術者だけでなく周囲も気づけます。
このルーチンで手順に組み込めることと、ETCO2モニターの感度・特異度から見ても有用な情報が勝手に表示されるのが急変時における真価だと思います。
もう一度言いますが、食道挿管は非常に致命的で見逃すと過失認定されるリスクが高いです。挿管する医師の責任だけにせず、看護師の立場から患者の安全を担保する意味でもETCO2モニターを導入、または活用していくことをお勧めします。
最後に
今回は食道挿管に焦点を当てて記事にしました。
最近ではエコーによる確認方法もあるようです。ただ術者のスキルに依存するのと、まだまだ一般的ではなさそうなので今回は省略しました。
食道挿管を回避する仕組みとしては、上級医や専門のスタッフを呼べる仕組みも必要だと思いますが、実際の臨床現場だとできない病院が非常に多い。
ETCO2を全ての部署に配置した場合のコストや使い方の問題など様々なハードルはありますが、できることからやりましょう。
※補足
心停止時のETCO2モニターから解ること
□気管チューブの位置
□CPRの質、蘇生中止の判断の一つ
□ROSCの検出
気管挿管の介助動画はこちら