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蘇生時に『アドレナリン』を投与するところノルアドレナリンを投与した事例から考える急変対応

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蘇生時に使う薬剤と言えば、皆さんどんなものを思い浮かべますか?
よく使うものとして、アドレナリン(商品名:ボスミン)があります。

「アドレナリン」と言われても「ボスミン」と言われても同じものです。
採用されている薬剤の名称で復唱(確認)してください。

さて、アドレナリンと名前が似ている薬剤としてノルアドレナリンがあります。心停止の患者には使いませんが、投与間違いの事故が報告されてましたので紹介します。製剤の外観については以下の画像をご覧ください。

アドレナリンとノルアドレナリンの名称や外観の違い

蘇生時に『アドレナリン』を投与するところノルアドレナリンを投与した事例

医療事故情報収集等事業 第 48 回報告書(2016年10月~12月)より
全文はこちら

抜粋すると

早朝、看護師Aはスタッフステーション内の モニタで患者のSpO2が低下していることに気付き、訪室。酸素流量を増量したが改善しないため、医師に連絡した。

4時38分、到着した医師Eから心臓マッサージの指示があり、看護師Bが心臓マッサージを実施したがHR20~30回/分、血圧測定はできなかった。医師Eから「アトロピン1A、ボスミン1A」と指示され、看護師Aは救急カート内を確認し「ボスミンはないです」と返答した。応援に駆け付けた看護師Cは、ノルアドレナリンは血圧を上げる薬剤と認識し「ノルアドしかないです」と言った。医師Eより「ノルアドでもいいから投与して」と口頭で指示があった。看護師Cはノルアドリナリン注を準備し、看護師Aは薬剤名を復唱しないまま投与した。

医師Eより再度「アトロピン1A、ボスミン1A」の指示があった。心臓マッサージを看護師Dと交代した看護師Bは過去にボスミンを使用した経験はなく、1回目の指示で使用したノルアドリナリン注の空アンプルを見て「ボスミン注=ノルアドリナリン注」と思い込み、アトロピンとノルアドリナリン注を準備後、「アトロピン1A、ボスミン1A入れます」と復唱して投与した。

http://www.med-safe.jp/pdf/report_2016_4_T002.pdf

事故の背景です

  • 救急カートにアドレナリンシリンジが配置されボスミンはなかった
  • この病棟では医師が「ボスミン」と呼称することが多かった
  • 対策としてシールでアドレナリンの横に「ボスミン」と書いてあった
  • 看護師A(17年目)はボスミンを知っていた
  • 看護師B(7年目)ボスミンを知らず、ノルアドの空アンプルがあったので思い込んだ
  • 看護師C(2年目)はボスミンを知らずどちらも血圧を上げる薬と認識してた
  • 看護師A〜Cは救急カートにアドレナリンシリンジがあることを知らなかった

何が問題か?

皆さんはどのようにしたら同じ事故を繰り返さないと思いますか?
報告書の改善策の一部を抜粋します。

・医師から口頭指示を受けたら 、準備した薬剤名を読み上げ、お互いに指示内容を確認のうえ実施する。
・救急カート内に配置している薬剤を中心に、急変対応に結び付ける病棟研修会を開催し知識を深めた。

復唱や確認は基本ですね。
この他の対策としては、周知活動を徹底することやノルアドレナリンを救急カートから除外するといったことが書かれていました。

ここからは私見です。
まず前提として、この事例の心停止の種類はなんだと思いますか?


1.心室細動(Vf)
2.無脈制心室頻拍(pVT)
3.無脈性電気活動(PEA)
4.心静止(Asystole)

恐らく、3か4だと思います。

医師が到着してからCPRしている点
アトロピンを投与している点
血圧測定の表記など

このあたりの流れも正しく評価して状況認識ができていたか気になるところです。

そして、すべての看護師が"知識"として知らなかったことがポイントだと思います。

裏を返せば、急変時の対応において薬剤を使うことが想定されたトレーニングが提供されていない可能性が浮上してきます。

看護師と急変対応の教育

では、看護師の急変対応に関する教育を思い出してください。

私の経験ですが学生の頃はBLSを体験程度にやるぐらいでした。看護師になってからも入職時にBLSを受けるぐらいです。

BLSの練習も状況設定が街中だったり院内のコンビニで倒れた人の対応をシミュレーションしてた気がします。

当然、心電図モニターやマニュアル式の除細動器、救急カート、薬剤なんてものは登場しません。

でも考えてみてください。

院内の看護師が業務として実践するのは2次救命処置(ALS)であって、BLSじゃありません。

心電図モニターがついている状況も多いですし、薬剤も確実に使用します。

こう考えると
看護師を対象に業務に即してないBLSを提供してるのが問題では?

さて、話を薬剤に戻します。

業務として救急カートの点検はありますよね?

私も先輩や上司から「薬覚えといてね」と言われて調べたのを覚えています。

でも、実際使う場面に遭遇しないので、今ひとつ繋がっていませんでした。

そもそも、救急カート内の薬剤をメモして、適応や効果、副作用を覚えるのがナンセンスだと思ってます。

実際調べても

「ショックの治療」
「急性循環不全治療薬」
「心室細動の予防」

などと広く書かれており、よく分かりませんし、病態や治療で使う場面とも繋がりません。

改めて、皆さんはどんな教育を受けましたか?
また、教育に携わる方は今の内容でこの事故は防げますか?

さいごに

こういう報告を読むと、臨床的には薬剤の知識も必要だと改めて感じました。

実際、心停止という超緊急な状況下でやることは限られますので、対応は非常にシンプルです。

心停止で使う薬剤と言えば「アドレナリン」と「抗不整脈薬(アミオダロン、リドカイン)」をまず覚えてください。
※リドカインとキシロカインも一緒ですから注意!!

また、「VF(心室細動)に対して早期除細動をしないと救命率が下がる」ことはよく言われますが、院内心停止の場合PEA(無脈性電気活動)やAsystole(心静止)に対して「アドレナリンを迅速に投与」することが推奨されているのは知っていますか?

記事の一番最後に関連記事を置いておくのでよければご覧ください

従来の教育に少しの時間と臨床に即したシミュレーション提供するだけで、減る事故だと思います。当事者として看護師にも辛い思いをしてほしくないので、注意喚起としてブログにまとめてみました。看護師の役割として「患者の命を預かる」部分が含まれると考えるなら、ぜひ検討してください。

(追記)ノルアドレナリンの作用

ノルアドレナリンはα作用は強いですが、アドレナリンには及びません。また、β受容体に対する作用が弱いことから心停止という最重症stepで、効果を期待するならばアドレナリンとなります。

ノルアドレナリンの添付文書に比較表があったので記載します。

アドレナリンは交感神経の α-受容体、β-受容体の両方に作用する薬剤であるのに対し、ノルアドレナリンは主に交感神経の α-受容体に作用し、β-受容体に対する作用は弱い

NADAD
心機能心拍数減少増加
1回拍出量増加=増加
心拍出量不変or減増加
冠血流量増加=増加
不整脈増加=増加
血圧収縮期増加=増加
拡張期増加不定
平均増加増加
肺動脈増加増加
末梢循環末梢抵抗増加不変
脳循環0〜減
内蔵循環0〜増増加
皮膚・腎血流量減少減少
NAD:ノルアドレナリン AD:アドレナリン
NAD添付文書より
アドレナリンとノルアドレナリンのα作用とβ作用の割合

You Tubeバージョンと関連記事

https://youtu.be/A6OOw5O0N0w

従来のBLS研修では院内心停止と戦えない
蘇生時に使うアドレナリンの効果

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