急変対応マニュアル

急変対応のABCDEアプローチ:看護師が「何を先に見るか」を迷わないための実践ガイド

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Contents
  1. ABCDEとは?──「まず何が命を奪うか」順に見る一次評価
  2. まず押さえる9原則(ABCDEを“現場で回る形”にする)
  3. “心停止かどうか”は最初に分ける(ABCDEは非心停止が基本)
  4. A:Airway(気道)──「声が出るか」「音が変か」
  5. まず見るもの(短時間で)
  6. B:Breathing(呼吸)── SpO₂より先に「呼吸数」と「呼吸仕事量」
  7. まず見るもの(見落としやすい順)
  8. C:Circulation(循環)── 血圧より先に「末梢循環」と「ショックの匂い」
  9. D:Disability(意識・神経)──「低酸素/低血圧/低血糖」をまず潰す
  10. E:Exposure(全身観察)── “見ないと分からない致死因子”を拾う
  11. ABCDEは“1周で終わり”ではない:介入→再評価→次の一手
  12. NEWS2とABCDE:スコアは“気づき”、ABCDEは“行動”
  13. 「分かってるのに現場で使われない」問題:研究が示す落とし穴
  14. 教育の根拠:シミュレーションはABCDEを上手くする(ただし維持が課題)
  15. 【コピペ用】病棟・救外で使うABCDEチェックリスト(最短版)
  16. 参考文献

ABCDEとは?──「まず何が命を奪うか」順に見る一次評価

ABCDEは Airway(気道)→ Breathing(呼吸)→ Circulation(循環)→ Disability(意識/神経)→ Exposure(全身観察) の順に、致死的な異常を先に見つけ、見つけたらその場で介入し、再評価しながら進めるための体系的アプローチです。

重要なのは「診断名を当てる」より先に、いまこの瞬間の生命維持(酸素が脳・臓器に届く流れ)を回復させること。これは多職種で共通言語になりやすく、チームの動きをそろえます。


まず押さえる9原則(ABCDEを“現場で回る形”にする)

Resuscitation Council UK のガイダンスが、ABCDEの運用原則を非常に明確にまとめています。ポイントは次の通りです。

  1. A→Eの順で評価し、同時に治療する
  2. 全体像を素早く取り、介入後に必ず再評価
  3. 致死的な問題は次へ進む前に先に潰す
  4. 必要なら早期に応援要請(RRT/RRS/上級者)
  5. チームで同時並行(モニタ装着・ルート確保など)
  6. コミュニケーションは型(SBARなど)で短く正確に
  7. 「少し良くして時間を稼ぐ」ことが最初のゴール(確定診断は後でOK)
  8. 介入の効果が出るまで数分かかることがある(短い間隔で再評価)
  9. 記録と引き継ぎまでがABCDEの一部

さらに、ERC(欧州蘇生協議会)も院内悪化対応の教育要素として、バイタル測定+ABCDE型アプローチ+SBAR+エスカレーションを明記しています。


“心停止かどうか”は最初に分ける(ABCDEは非心停止が基本)

ABCDEは原則として 「呼吸があり、心停止ではない」患者の初期評価です。
倒れていて反応がなく、呼吸が正常でない(あえぎ呼吸は正常ではない)場合は、まず蘇生アルゴリズム(BLS/CPR)へ移行します。


最初の数秒:第一印象の評価 で「やばさ」を確定する

ABC…と入る前に、まずは 全体の第一印象で「この人は危ない」を確定させます。

  • 安全確認(自分・スタッフ・感染対策)
  • 外観・呼吸・循環から第一印象を評価
  • ヤバいと思ったら患者に声かけ:「大丈夫ですか?」
  • 普通に会話できる=気道が保たれ、呼吸・脳灌流がある程度ある
  • 反応が鈍い/短い文しか話せない/反応なし=重症の可能性が高い
  • 必要ならここで 応援要請を先に入れる(人が来るまでの時間が一番もったいない)

この“最初の見立て”の重要性は、ABCDEの「First steps」として整理されています。

この動画の第一印象はどうですか?

ヤバいですよね。

視線も合わないし呼吸もしてなさそう。

この場合はBLSの手順に進みます。


A:Airway(気道)──「声が出るか」「音が変か」

まず見るもの(短時間で)

  • 話せるか(声量、途切れ、嗄声)
  • 異常な呼吸音:いびき様(舌根沈下)、ゴロゴロ(分泌物/嘔吐物)、吸気性の笛様音(狭窄)など
  • 胸腹部の逆運動(シーソー呼吸)など、閉塞のサイン
  • 意識低下があると気道閉塞リスクが上がる

これらは、気道閉塞を疑う手がかりとして整理されています。

その場でできる初期介入(業務範囲で)

  • 体位調整、気道開通の基本手技、口腔内の目視と吸引準備
  • 必要なら 高濃度酸素を開始しつつ、上級者(医師/麻酔科/救急)へ早期コール
  • 「気道が危ない」は 最優先でエスカレーション(Aで詰まるとB以下が全部崩れる)

「気道閉塞は緊急事態で、早期に専門的な助けを呼ぶ」という原則は明確です。


B:Breathing(呼吸)── SpO₂より先に「呼吸数」と「呼吸仕事量」

まず見るもの(見落としやすい順)

  • 呼吸数(増加・増加傾向は悪化サイン)
  • 呼吸の深さ/リズム/努力呼吸(肩で息、陥没、補助筋使用)
  • チアノーゼ、冷汗
  • 左右差(胸郭の動き)
  • SpO₂ と “今入っている酸素(デバイス/流量/FiO₂の目安)”はセットで記録

呼吸数の重要性や、SpO₂が換気不全(高CO₂)を拾えない点など、現場でハマりやすい注意点に気をつけよう。

その場でできる初期介入

  • 体位(起坐位など)・酸素投与(施設プロトコルに沿って)
  • 目標SpO₂の考え方:一般に急性呼吸不全では 94–98% を目標、COPDなど高CO₂リスクでは 88–92% を目標とする運用が示されています(施設基準優先)。
  • 重篤な呼吸苦、左右差、急激な悪化は 早期にRRT/医師コール(“Bで死ぬ”ケースは速い)

C:Circulation(循環)── 血圧より先に「末梢循環」と「ショックの匂い」

まず見るもの

  • 脈(速さ・強さ・規則性)
  • 皮膚:冷感、湿潤、蒼白
  • 毛細血管再充満、四肢末梢の灌流
  • 血圧(取れない/測れないも異常)
  • 出血がないか(ドレーン、創部、便・吐血など)

「循環虚脱は原因により治療が異なるが、まず組織灌流の回復を優先し、致死的状態を見つけて緊急対応する」という整理は、ABCDEガイダンスの中核です。

その場でできる初期介入(業務範囲で)

  • モニタ装着、静脈路確保・採血準備、輸液/昇圧は施設手順に従う
  • 胸痛などでは早期に12誘導や医師評価へつなぐ
  • ショック疑いはCで止まって“助けを呼ぶ”(原因鑑別は後からでもよい)

D:Disability(意識・神経)──「低酸素/低血圧/低血糖」をまず潰す

まず見るもの

  • 意識レベル(AVPU あるいはGCS)
  • 瞳孔(左右差、対光反射)
  • 血糖(低血糖は“すぐ治せる致死的原因”になり得る)
  • 痙攣、麻痺、急な錯乱

ガイダンスでは、意識障害の一般的原因として 低酸素・高CO₂・低灌流・鎮静/鎮痛薬などを挙げ、まずABCを見直すこと、血糖測定などの初期対応を示しています。

その場でできる初期介入(業務範囲で)

  • まず A/B/Cの是正(酸素化と血圧)を優先
  • 血糖の是正は施設プロトコルへ
  • 気道が守れない意識レベルなら誤嚥リスク対応(体位など)+上級者コール

E:Exposure(全身観察)── “見ないと分からない致死因子”を拾う

まず見るもの

  • 体温、発疹(アナフィラキシー/敗血症の手がかり)、出血斑
  • 外傷、熱傷、ライン/創部、浮腫
  • 体幹の聴診・触診(必要範囲で)
  • ただし 露出は最小限+保温+尊厳(低体温を作らない)

「全身を観察するために露出が必要な場面がある一方、尊厳と熱喪失を最小化する」点が強調されています。


ABCDEは“1周で終わり”ではない:介入→再評価→次の一手

ABCDEは直線ではなく、ループです。
Aで介入したらA(+必要ならB)を再評価、Bで介入したらB(+必要ならA/C)を再評価…という具合に回します。これは「初期評価を完了し、定期的に再評価する」「介入の効果判定をする」という原則に基づきます。


NEWS2とABCDE:スコアは“気づき”、ABCDEは“行動”

病棟では「NEWS2が上がったらどうする?」が悩みどころですが、考え方はシンプルです。

  • NEWS2:悪化の検知(トリガー)
  • ABCDE:悪化に対する一次評価と初期介入(アクション)

英国のe-Learning(NHS系)でも、ABCDEが悪化患者評価の推奨アプローチであり、NEWS2の基盤になっていると説明されています。
またERCの院内悪化対応教育でも、バイタル測定・ABCDE・SBAR・エスカレーションがセットで扱われています。


「分かってるのに現場で使われない」問題:研究が示す落とし穴

ABCDEは有名ですが、実は 現場での実施率・遵守率が十分でないことが複数研究で示されています。

  • 救急外来の観察研究では、(トリアージ上)不安定の可能性がある患者でも ABCDEが使われたのは一部だった、という報告があります。
  • 知識テスト研究では、ABCDEの理論知識スコアが職種や部署などでばらつき、知識向上の介入が推奨されています。
  • 2024年のスコーピングレビューでも、ABCDEのツールは多様で、遵守率の幅が大きい一方、患者アウトカムとの関連データはまだ乏しい、と整理されています。

つまり、皆さんがつまずくのは「概念」より “現場で回す型”

だからこそ次の2つが効きます。

  • コピペできるチェックリスト
  • 報告(SBAR)まで含めた一連の流れ

教育の根拠:シミュレーションはABCDEを上手くする(ただし維持が課題)

ABCDEを「できる」に変えるには、座学より シミュレーションが強い、というデータがあります。

  • シミュレーションを用いた教育研究で、ABCDE一次評価のパフォーマンスが 受講直後と3–4か月後でも受講前より改善していた、という報告があります。
  • 一方で、時間とともに低下しやすいのは CRM(チーム連携・コミュニケーション等)であり、リフレッシャーの必要性も示唆されています。

【コピペ用】病棟・救外で使うABCDEチェックリスト(最短版)

0)最初は第一印象の評価

  • □ 安全確認/感染対策
  • □ 反応と呼吸を確認(心停止ならCPRへ)
  • □ 応援要請を早めに(RRT/医師/先輩)
  • □ モニタ・SpO₂・血圧など“早めに装着”

A)Airway

  • □ 話せる?声は?
  • □ 異常音(いびき/ゴロゴロ/笛)
  • □ 体位・気道確保・吸引準備、危なければ上級者コール

B)Breathing

  • □ 呼吸数(増加/増加傾向)
  • □ 努力呼吸・左右差・SpO₂(酸素条件とセット)

C)Circulation

  • □ 脈・皮膚・末梢灌流・血圧
  • □ 出血/ショックの匂い
  • □ ルート・採血・心電図など、施設手順で同時並行

D)Disability

  • □ AVPU/GCS、瞳孔、血糖
  • □ まずABCを再確認(低酸素・低灌流・薬剤)

E)Exposure

  • □ 体温、発疹、外傷、ライン/創部
  • □ 露出は必要最小+保温+尊厳

参考文献

  • Resuscitation Council UK. The ABCDE Approach(updated July 2024)
  • Thim T, et al. Initial assessment and treatment with the ABCDE approach (Int J Gen Med, 2012) 
  • Bruinink LJ, et al. The ABCDE approach in critically ill patients: scoping review (Resusc Plus, 2024) 
  • Drost-de Klerck AM, et al. Simulation training to teach ABCDE primary assessment (BMJ Open, 2020; PMC) 
  • Schoeber NHC, et al. Healthcare professionals’ knowledge of the systematic ABCDE approach (BMC Emerg Med, 2022; PMC) 
  • Olgers TJ, et al. ABCDE primary assessment in the ED: observational pilot study (Neth J Med, 2017; PDF) 
  • European Resuscitation Council. Guidelines 2021: Adult advanced life support(院内悪化対応教育にABCDE型・SBARを含む)
  • e-Learning for Healthcare (NHS). ABCDE Approach programme(悪化患者評価の推奨、NEWS2の基盤として言及)
  • JMECC(日本内科学会認定 内科救急)資料(非心停止患者への共通アプローチ、ABCD評価など)

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