ACLS 急変対応マニュアル

看護師向け!心停止中の気管挿管のタイミングはいつがベスト?(NCLS/ACLS/ICLS)

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心停止時の気管挿管——救命の現場でこの判断に迷ったことがある方、多いのではないでしょうか?

二次救命処置の研修(ACLS/ICLS)ではBVMで換気ができていれば不要と指導しつつ、臨床では患者FULL CODEの場合、気管挿管に踏み切ることが多いような印象を受けます。NCLSでは臨床に即して気管挿管をするシナリオを多めにして介助に慣れるような仕組みにしています。

今回はシミュレーションでも悩む心停止中の気管挿管のタイミングを掘り下げます。

まずは心停止で重要になる概念であるCCFから確認です。

💡 CCF(Chest Compression Fraction)とは?

CCF(胸骨圧迫時間比)とは、「心肺蘇生中にどれだけの時間、胸骨圧迫が行われていたか」を示す指標で、
心拍再開(ROSC)との関連が極めて強いことが知られています。

  • CCFは80%以上が理想とされ、
  • これを下回るとROSC率・生存率が明確に低下するという研究も多くあります。

80%を達成するには...
10分間心停止の対応をしているとしたら8分間は胸骨圧迫に費やしてないといけない

気管挿管は中断時間が延びやすい代表的な処置のため、
「挿管を頑張ることでCCFを落としてしまう」=「救命のチャンスを自ら削る」ことにもなり得るのです。

🧠 気管挿管の位置づけ(JRCガイドライン2020より)

JRC蘇生ガイドライン2020では

「気管挿管は成功率が高い場合には考慮してもよい。ただし、胸骨圧迫中断時間が長引くと気管挿管は有害となるので、胸骨圧迫の中断時間は可能な限り短くするべきである。」
— JRC蘇生ガイドライン2020「成人の二次救命処置」より

CCFを下げないよう気管挿管できるなら"考慮"というニュアンスだね

挿管そのものが目的になるのではなく、蘇生の質が上がる場合には考慮すべきです。

低酸素血症やショックのような病態から心停止に陥った場合には胸骨圧迫だけでなく人工呼吸が重要になります。気管挿管することで確実な気道確保ができます。また気管挿管した場合胸骨圧迫と換気の比率が30:2から6秒に一回となります。気管挿管に伴う胸骨圧迫の中断が短かった場合にはCCFは恐らく上がります。

心停止中の気管挿管 タイミング判断チャート

✅ 判断のステップと根拠解説

STEP 1:BVMで十分な換気ができているか?

  • 換気の確認方法:胸郭の挙上、BVMのバッグの抵抗
  • できていれば、この段階で急いで挿管は不要。CCFを優先したほうがよい
  • できていない場合も二人法の換気やエアウェイを考慮

BVMで換気ができていれば急ぐ必要はない。
VF/pVTのときも同様で電気ショックとCCFを上げた方が良い!
心停止中のSpO2は信憑性がないので参考にはしないのも覚えておいてほしい。

STEP 2:i-gelなどの声門上気道デバイスで対応できるか?

  • JRCも「気管挿管成功率が低いなら声門上デバイスを推奨」

STEP 3:熟練者がいて、圧迫中断時間を最小限にできるか?

  • 中断時間を超えるなら「今はやらない」が正解

STEP 4:ROSCが得られた or 得られそうな状況か?

  • ROSC後は気道や呼吸が不安定ならば気管挿管考慮(気道確保と人工呼吸管理のため)
  • 状況が安定すればこのタイミングで安全に施行

タイミングが悪い挿管の例(やってはいけない)

タイミングの悪い例をまとめました。

臨床では慣れていないスタッフが行うと準備が不十分なまま気管挿管に踏み切る場面をよく見かける。物品からベッドの高さやポジショニングなど準備が整ってなければ成功しない。まずは換気の評価、そして踏み切るのであれば確実な準備を実施してから踏み切りたい。看護師であれば手が空いたタイミングで挿管の準備をしておこう。

状況なぜダメ?
BVMで換気良好だがルーチンで挿管意味がなく、CCFを下げるだけ
チームに熟練者がいない食道挿管リスク+処置時間の増大によるCCF低下
挿管中に胸骨圧迫が止まりがち挿管による一時停止が蘇生の質を低下
処置優先で声かけ・連携が不足誤解・リスク・事故につながりやすい

まとめ:挿管は「換気確保+中断最小+熟練者」がそろったときに

気管挿管は確実な気道確保手段ですが、使いどころを間違えると救命率を下げるリスクもある行為です。

🔑 ポイントは:

  • BVMやi-gelで足りているなら無理に挿管しない
  • 挿管は熟練者が短時間で実施できるときのみ
  • CCF(胸骨圧迫時間比)を常に意識し、挿管による中断を10秒以内に

📚 出典・参考文献:

  1. 日本蘇生協議会 (JRC). JRC蘇生ガイドライン2020「成人の二次救命処置」
    https://www.japanresuscitationcouncil.org/

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