ROSC後ケアの重要性
心停止からの救命処置で自己心拍が再開した(ROSC)患者では、蘇生直後から「脳・心・全身の二次障害」を防ぎ、神経学的予後を改善し、生存率を上げるための迅速かつ統合的なケアが極めて重要です。
また、ROSC後は、蘇生直後からICU管理・神経予後予測・救命後回復・リハビリテーションまで、時間軸・多職種・システム連携が不可欠であると明記されていますので看護師であっても知っておきたいところです。
「ROSCが取得できた=治療終了」ではなく、
「ROSC後こそが治療のスタート」であるという認識が重要です。
AHA2025年版におけるPCACのアップデートのポイント
以下、ガイドラインで特に注目すべき更新点を整理します。
- 成人において、ROSC直後の低血圧を回避するため 平均動脈圧(MAP)≥65 mm Hg を維持となっています。この部分はG2020から変更無いものの収縮期血圧の項目はなくなりました。
- 診断検査として、頭部~胸腹部のCTや心エコー(POCUS)を「検討すべき(reasonable)」とした点が新たに追加されました。
- 体温管理(Targeted Temperature Management:TTM)では、命令に従わない(意識障害が残る)成人患者に対して、32-37.5 ℃の範囲で、少なくとも36時間の維持が合理的とされました。
- 神経予後予測において、72時間以上経過後(または体温正常化後)EEG等を用いるべきという明記がなされました
- 生存者・家族への回復・支援にもフォーカスが強化され、退院前/退院後の心理・認知・身体機能評価およびケアが「合理的な」対応として推奨されました。
これらの更新を押さえた上で、ROSC後ケアのアルゴリズムをそのまま読み解き、看護師・臨床教育用に咀嚼していきます。
アルゴリズム(ROSC取得後)
以下は、AHA2025年版の成人向け「Post–Cardiac Arrest Care Algorithm」から、ROSC取得直後~継続管理までを整理したものです。
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ステップ1:ROSC取得後直後の初期安定化
- 気道管理(Airway)
- 挿管後は波形(ウェーブフォーム)ETCO₂カプノメーターで、適切な位置・換気状態を確認。
- 酸素化・換気(Oxygenation & Ventilation)
- 当初はFiO₂ 100%とし、SpO₂またはPaO₂が信頼できるまで維持。
- SpO₂目標:90-98%、またはPaO₂ 60-105 mmHg。
- PCO₂目標:35-45 mmHg(重度の酸血症がない限り)
- 過換気・過酸素化を回避することが重要。
- 血行動態管理
- MAP ≥ 65 mmHgを目標とし、必要であれば昇圧薬・輸液を開始/調整。
- 血圧低下(特に低MAP)は神経学的転帰を悪化させうるため、速やかな対応が必要。
- 早期診断検査(Early diagnostic testing)
- 12誘導心電図(12-lead ECG)を取得し、虚血性心停止/不整脈などの原因評価。
- 必要に応じて頭部・胸部・腹部・骨盤のCT、超音波(POCUS)や心エコーも検討可。
看護師視点のポイント
- 気道確保/換気管理は蘇生直後でも「継続すべき蘇生」の一部と考え、迅速に対応できるチームづくりが重要です。
- SpO₂・ETCO₂・Arterial BPをモニタリングし、換気過多・低換気・低酸素を回避することが神経予後に影響する。
- 血圧・昇圧薬管理はICU移行前からの準備が望まれ、看護師としては昇圧薬準備・輸液管理・MAP変動チェックを行いやすい環境整備が鍵です。
- 診断検査の開始(12 ECG=即時、CT/POCUS=検討)にあたって、検査搬送・家族説明・リスク管理などを早めに協働体制で行うとスムーズです。
ステップ2:継続管理・二次ケア(Continued Management)
- 原因治療および合併症対応(Treat arrest etiologies and complications)
- 心停止の原因(例:冠動脈病変、肺血栓塞栓、循環血液量減少、代謝異常、薬物中毒など)を継続して探査・対応します。
- 心原性ショック、再発性・難治性心室性不整脈、重度の虚血を認めた場合は、緊急冠動脈造影(PCI)または機械的血行動態補助(MCS)を検討すべきとされます。
- 体温管理(Temperature control / TTM)
- 意識がなく、命令に従わない患者/筋弛緩・鎮静中の患者に対して、32-37.5 ℃を目標として、少なくとも36時間の体温管理戦略を講じることが合理的とされました。
- 冷却型(32-34℃)または正常体温維持型(36-37.5℃)いずれも適用可能。ただし、症例毎に選択する必要があります。
- 神経学的モニタリング・予後予測(Prognostication)
- 臨床的予後を判断する際、単一指標ではなく多変量アプローチが推奨されており、例えばEEG、バイオマーカー、画像検査などを組み合わせます。
- 予後予測のタイミングは、ROSC後または体温管理/正常化後 72時間以上経過後とするべきとされています。
- 継続的クリティカルケア(Ongoing critical care)
- 酸素・換気目標:PaO₂ 60-105 mmHg、PCO₂ 35-45 mmHg。
- グルコース管理:低血糖(<70 mg/dL)を避け、高血糖(>180 mg/dL)も回避。
- 血圧管理:MAP ≥65 mmHg維持。
- その他:必要に応じて抗菌薬使用、機械的循環補助を検討。
- サバイバーシップ/回復支援(Recovery & Survivorship)
- 退院前・退院後に、身体・認知・感情面の評価・ケア/紹介を構造的に行うことが合理的とされました。
まとめ
ROSC後ケアも、急変対応の中で看護師の力量が問われる領域である。
AHAG2025アルゴリズムでは大きな変更点はありませんが、現場での判断を単純化しつつ、神経予後改善に直結する項目を明確に示しています。
・換気・酸素化の適正化
・MAP ≥ 65 mmHg の確保
・体温管理(36時間)
・12誘導心電図・CT・POCUSの早期実施
・予後評価
これらは、どれか1つが抜けてもアウトカムが悪化し得るため、看護師もこのアルゴリズムを理解し、チームの中心として“ROSC後ルーティン”を標準化することで、院内急変対応の質は一段上のレベルに到達する。
急変教育の現場では、ROSC後ケアを「蘇生後のチェックリスト」として体系化し、シミュレーションに組み込むといいかもしれない。